―― 2012年度のドコモのプロダクト戦略は、どのような方向になるのでしょうか。
辻村氏 まだ計画中なので具体的なことはお話しできませんが、まずスマートフォンの総販売数が1000万台強になると考えています。これはドコモの年間総販売台数である約2000万台の半分以上がスマートフォンになる、という計算です。
では、この1000万台強の内容はどうなるのか。その部分では、従来よりもさらにスマートフォンユーザーの裾野が拡大する、という点に注目しています。先ほどの議論にも出ましたが、低リテラシー層がスマートフォンに移行するということを重視していかなければなりません。
―― これまでケータイしか使っていなかった人たち向けの、エントリーモデルのラインアップが重要になりますね。
辻村氏 ええ。その部分はサービスも含めて強化します。その一方で、先進性を求めるハイエンドユーザー向けのラインアップでも競争力を高めなければなりません。ここではXi対応や、2012年4月にスタートするmmbi対応が1つの軸になるでしょう。
―― 私はXiに関して、スマートフォンの価値を底上げするものと評価しています。そう考えますと、ハイエンド層だけでなく一般層向けのスマートフォンでもXi対応を積極的に進めるという戦略もあると思うのですが、いかがでしょうか。
辻村氏 Xiの競争力が高いのは確かですが、ラインアップ内での対応機種拡大は、サービスエリアの拡大とのバランスも考えていく必要があります。Xiエリアは2011年度末時点で人口カバー率25%程度ですが、我々としては2014年度中にこれを98%まで引き上げる計画です。2012年度はちょうどエリア拡大期のさなかになりますので、エリアのカバレッジは50%前後になるでしょう。
―― WithシリーズのXi対応はいつ頃になるのでしょうか。
辻村氏 まだ決めていません。ただ2012年度で言えるのは、Xi対応はNEXTシリーズ中心で訴求することになると思います。
―― Xiと並んでハイエンド向けの機能として挙げられていたmmbiですが、こちらの対応機はどの程度まで増えるのでしょうか。
辻村氏 当初は2機種から初めて、2012年度の上期に5機種まで増やします。サービス開始初期は端末側にmmbi対応のコストがかかりますし、全国エリアの完成にも若干時間がかかります。ですから、ハイエンドモデルの一部から対応させていきますが、いずれは(mmbiは)ワンセグのような標準的な機能になっていくと考えています。ただ、そういった標準機能化までには段階を踏んでいく必要がありますね。
―― スマートフォンは引き続き伸びていくわけですが、タブレット市場についてはどのようにご覧になっていますか。
辻村氏 タブレットはとてもポテンシャルのあるジャンルだと見ています。しかもXiとの相性がとてもよい。それはなぜかといいますと、タブレットのスクリーンサイズで大容量コンテンツやWebを使うということになれば、Xiインフラの(高速・大容量通信という)強みが生きるわけですね。また大画面ならではのUIが作れますので、現在開発中の「通訳電話」などとの相性もいい。
その上で直近の動きをお話ししますと、タブレットはまず法人市場から立ち上がっていくと考えています。一方で、コンシューマー市場では“ファミリーユース”の部分に最初の可能性があるでしょう。
―― タブレットはギーク層が飛びついている印象がありますが、実際の利用で見ますと、おっしゃるとおりファミリー層に可能性がありますね。特に日常的にPCを使わない層の方が、タブレットの本質的な価値をきちんと見いだして、ライフスタイルの中で使いこなしています。
辻村氏 主婦や子供といった層は可能性を特に感じる部分ですね。我々の調査でも、そういった人たちの方がタブレットをうまく活用していただけるという声を多く聞いています。私はそこに大きな可能性を感じています。
現時点では、タブレット需要の立ち上がりは我々の想定よりも低いです。しかし、潜在的な可能性という点では、かなり大きなものがあると考えています。
―― 私もタブレットにはポテンシャルを感じています。特にPCを日常的に利用する生活習慣を持っていない一般ユーザー層向けに、タブレットは“インターネットとデジタルコンテンツのカジュアルユース”の新たな利用スタイルと市場を切り拓く可能性が高い。ここが今後のビジネスにおいても重要なわけです。
しかし、その一方で、現在のタブレット市場には不足感も感じています。
1つはタブレット市場において、“iPad以外のヒットモデルが出てこない”こと。Androidタブレットの数は増えましたが、iPadのような成功を収めるモデルはいまだ出ていません。
そして、もう1つは“Androidタブレット向けに最適化されたアプリ”が乏しいこと。iPadは専用アプリがとても魅力的な世界を構築していますが、Androidタブレット向けに最適化された専用アプリはとても少なく、アプリストアも使いにくいのが実情です。
辻村氏 まずラインアップという点では、現在スマートフォンを作っているメーカーにタブレットの開発を依頼し、前向きになっていただいています。ここではスクリーンサイズのバリエーションも重視していまして、5インチ・7インチ・10インチのそれぞれの市場を考えています。特に5インチと7インチにも、それなりの需要があると見ています。
―― 10インチクラスのタブレット市場の可能性はiPadが牽引する形で顕在化していますが、5インチと7インチはこれからの市場です。しかし、Appleが手がけなかっただけで、このクラスにも10インチとは異なる市場や需要がありそうです。2012年はタブレット市場の多様化にも注目したいですね。
辻村氏 Androidタブレット向けアプリの品ぞろえについては、我々も大きな課題と認識しています。ここは「鶏と卵のジレンマ」があります。今はまだ圧倒的にスマートフォンの方が数が多いですが、タブレット市場はホームユースを筆頭に今後成長していきますので、専用アプリも増えてくるでしょう。
また、Androidタブレット向けアプリの拡充については、コンテンツプロバイダーの自発的な開発を待つだけではありません。ドコモとしても積極的にコンテンツプロバイダーへの開発要請や、アプリ環境整備の推進をしていきます。
―― あとは鶏卵のジレンマをいかに打ち破るか、ですね。
辻村氏 その点では手応えも感じています。ドコモショップにヒアリングをしていますと、「お客様にしっかりとタブレットを勧めると買っていただける」という声を聞きます。販売の部分で工夫していけば、タブレットの普及はできるでしょう。
―― これはAndroidタブレットに限りませんが、タブレットはスマートフォン以上に“コンサルティングセールス”の商材ですね。お客様のニーズやライフスタイルを聞いて、そこからタブレットの価値を伝えていく。販売現場のスキルが、普及を大きく左右する分野と言えます。
辻村氏 そのとおりですね。特にファミリー層向けには、販売スタッフが使い方やお勧めのアプリなどについてきちんと伝える、といったことが大切ですね。
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