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» 2010年05月20日 10時00分 UPDATE

新型デバイスが切り開くメディアとコンテンツ産業の未来(前編) (1/2)

電子ブック・リーダーやタブレット型端末などの新たなデバイスが、メディア/コンテンツ産業を劇的に変えようとしている。昨今、深刻な構造不況に直面しているこの産業は、その打開策の一環として、新型デバイスに強い関心を示している。この新しいデバイスの現状や将来性を解説し、メディア/コンテンツ産業の次世代像を占ってみたい。

[小林雅一(KDDI総研),ITmedia]

 新聞や雑誌、書籍などの印刷メディア産業は今、15世紀のグーテンベルク革命以来の大変革期に突入しつつある。当時の活版印刷技術は書物の大量生産を可能とし、それまで聖職者など一部特権階級に独占されていた情報アクセスや学習の手段を一般大衆に開放した。これによって合理性に立脚した近代社会が誕生し、その後の自然科学の発達や産業革命を促したと考えられている。

 このように15世紀のメディア革命が「読者数の飛躍的拡大」という量的なものであったのに対し、現在の電子デバイスが引き起こそうとしているのは質的な革命である。そこでは活字、音楽、動画、ゲームなど、従来は異なる領域に区分されてきたコンテンツが絶妙のバランスで融合し、モバイルインターネットに乗ってユーザーの端末(デバイス)に送り届けられる。つまり本格的なマルチメディア化と、よりスピーディで合理的な流通手段への移行が、今回のポイントである。

 こうしたメディア革命の具体像を思い描くために、まずは新型デバイスの現状と将来性を見て行こう。今年1月に米ラスベガスで開催されたCES(Consumer Electronics Show)には、特に電子ブックリーダーが数多く出品された。それが実際にどのような仕様で、どんな動き方をするのかを、動画を交えて見て行こう。

これからのメディアはどんなハードウエアになるのか

 最初にご覧いただくのは、英Plastic Logicが開発した3G対応の電子ブックリーダー「Que(キュー)」である。同社は英ケンブリッジ大学の研究プロジェクトから生まれたベンチャー企業だ。その技術が高い評価を得て2億ドル以上の投資をベンチャーキャピタルから受けるなど、以前からKindleへの対抗馬として期待されている。


 映像から一目瞭然なのは、Queが非常に薄く、カバンに入れて持ち運び易いこと。またユーザーインタフェース(UI)面では、静電方式のタッチパネルを搭載していることだ。現在、世界的に最も普及している電子ブックリーダーはAmazonのKindleだが、これは端末の下部に配置された多数のボタンを押して操作する。しかしすでに市場に出回っているソニーの「Reader Daily Edition」、さらに2010年のCESに出品された電子ブックリーダーの大半は、Queと同じくタッチパネル方式を採用しており、この点でKindleは早くも時代遅れになりつつある。

 Queのさらなる特徴は、情報の入力機能が比較的充実していることだ。現在のKindleが活字コンテンツの表示に主眼を置いた出力端末であるのに対し、Queの場合、タッチパネルを用いて指で図形を描いたり、ソフトウェアキーボードから注記などを書き込むことができる。ただし製品としての作り込み具合は、まだ不十分と言わざるを得ない。前出の映像を見れば分かるとおり、タッチパネル上にソフトウエアキーボードを表示させると、いきなり中央にどかんと出現し、画面全体を覆い隠してしまう。これでは記事に注記を書き込むなど、本来の目的を阻害してしまう。

 Queはもともと、米国の全国紙USA Todayなどを発行するGannettらと共同開発され、その過程で新聞社を始め出版産業の意向が、製品の仕様に盛り込まれた。しかし記事の表示方法には工夫を凝らす一方で、読者側からの入力インタフェースには稚拙さを覗かせるなど、今後重要性を増して行く「メディアと読者(ユーザー)とのインタラクション」という新たな領域では課題を残している。

 そのほかにも未熟な点としては、ボディのデザインが挙げられる。薄くしたのはいいが、極端に角ばった垢抜けない外観で、とても売りに出す製品には見えない。Queは当初、今年4月に発売される予定だったが、Plastic Logicは3月になって「発売時期を2010年夏まで延期する」と発表した。延期の理由は上記のような作り込みの不十分さに加え、製造コスト(ひいては小売価格)の高さである。Queの発売価格は当初800ドルを予定していたが、4月3日に米国で発売されたiPadが、499〜829ドルと事前の予想より低い価格を提示してきた。iPadは電子ブックのみならず、音楽からビデオまで多彩なコンテンツや用途に対応した汎用端末である。それが上位機種でも800ドル余りで発売されるのに、電子ブック専用端末であるキューが同じく800ドルでは太刀打ちできないと判断したのだろう。

汎用端末 vs. 専用端末

 現在、デバイスメーカーが強い関心を示しているのが、今後KindleやQueのような電子ブックリーダー、あるいはそれに代表される専用端末が主流になるのか、それともiPadのような汎用端末が主流になるのか、という点である。例えばAppleのスティーブ・ジョブズ氏は汎用端末の信奉者で、Kindleのような専用端末はいずれ廃れると見ている。しかし出版業界では、電子ブックリーダーの仕様をシンプルな機能に絞り込んで、その分価格を安く抑えれば、それなりの市場を確保できるとの見方が強い。

 実際、2007年11月に発売された初代Kindleは399ドルもしたが、その後段階的に値下げされ、現在の「Kindle 2」は259ドルである。これに対抗すべく、ソニーは今年4月、最下位機種の「Reader Pocket Edition」を169ドルと極めて安い価格に設定した。米Forrester Researchは、今後、台湾を始めアジアのデバイスメーカーが電子ブックリーダーに本格参入することで、その小売価格は2011年までに100ドルを切ると予想している。

 一方で、電子ブック市場を先頭に立って切開いて来たAmazonは2010年2月、Kindle向けにAppleのApp Storeのようなアプリ売買市場を創設する計画を発表。これに先立ち、同社は先進のマルチタッチ技術を開発する企業Touchcoを買収している。これらの動きは、今後Kindleを単なる電子ブックリーダーからiPadのような汎用メディア端末へと進化させる意図を感じさせる。つまりAmazon自身が、メディア端末の方向性についてはいくつかの選択肢を検討しているのだ。

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