ITmedia iPhone 4以外の端末で注目したものはありますか?
遠藤 シャープ「LYNX 3D SH-03C」や「GALAPAGOS 003SH」の裸眼で立体視できる3Dは、僕の想像よりすごかったですね。
神尾 でも、3Dに関してはコンテンツ次第ですよね。UIとして使うには、3Dはどうかなと思うので。3Dはパッと見は派手ですけれど、どれだけモバイル端末の本質的な価値を向上させるか疑問です。
遠藤 人々を幸せにすればいいんですよ(笑)
神尾 私は「IS03」に搭載されたコンビネーション液晶の方がいいと思いました。最近は腕時計を付けない人も多いですし、スマートフォンでも時計が見やすい場所にあるのって重要です。
それと私がシャープ端末でよかったと思ったのは、ベールビューを搭載してきたこと。スマートフォンは画面が大きいので、覗き見されるのって嫌なんですよ。日本は通勤や通学で電車を利用することが多いので、こういう配慮は大切だと思います。シートを貼るといった方法もありますが、標準でベールビューを搭載したというのは、日本メーカーらしくて好きですね。
あと、有機ELがいいって言われていますけど、やっぱり屋外では見にくいです。屋内ではきれいなんですが、スマートフォンは屋外で使う機会が多いことを考えると、私はSUPER AMOLEDをはじめとする有機ELはまだそれほどよくないと思っています。実は、GALAXY Sに関しては、バッテリーの持ちはすごく評価しているんですが、そのほかの部分はまだ改善の余地があると思っています。屋内での利用がほとんどという人だったらいいけれど、外に出て直射日光下で使うことを考えると、普通のケータイの方がずっと見やすいですよ。
夏野 有機ELはまだちょっと弱いですね。
神尾 モバイル機器として追求する本質がちょっと違うな、と思ったんです。その点、シャープの端末は屋外でもちゃんと見える液晶ディスプレイを採用していて、iPhoneにないベールビューもちゃんと搭載しているので、日本で使うには使いやすい。日本メーカーの作り込みを、うまくこの形にも組み込んできたということで、IS03は評価したいです。日本のケータイで培ったものを生かしていますよね。
夏野 ストラップホールとかも?
神尾 私はそれはどうでもいいです(笑)
夏野 GALAXY Sは、端末の“持つ場所”(端末の下端部)にボタンがあって困るよね。
神尾 (モバイル端末の)実運用を見越した設計・デザインのノウハウって、日本のメーカーは結構持っていますよ。「自信を持って!」と言いたいですね。海外にiモードはなかったけれど、日本はiモードを10年やってきました。モバイルインターネットを外出先で使うときに生まれる細かなニーズに対して、どう対応したらいいかというノウハウを、日本のメーカーは持っている。
夏野 あと、電話としての優秀さもね。iPhoneは電話帳は使いにくい。SMSの表示もかなり独特。しかも、SMSの着信お知らせが「○○さんからメールが届いています」という表示と本文の一部がロック画面の手前に表示される。あれは最悪ですよ。履歴も1つ1つ個別に消すことができないし。
神尾 メールのシークレットフォルダもないし、プライバシーモードもないですし。iPhoneユーザーは浮気できません(笑)
夏野 電話としての必須機能がiPhoneは圧倒的に抜けていますね。
神尾 まじめな話、外に持ち歩くからこそ、PCとは違うプライバシーの保護は必要ですね。コンシューマーがモバイルインターネット端末として使うことの知見は、日本のメーカーはかなり持っているはずなんです。それをスマートフォンでもうまく活用してほしい。
しかし、その一方で、日本のメーカーはデザインや質感とかは弱いですね。言われないととことんまで追求しない。
夏野 コストが優先なんですよね。それに自信がないんです。デザインは、僕は経営だと思っています。経営者が自分の事業責任の範囲でデザインを決めていかないと、斬新なものは出せない。事業リスクを取れる人間が最後に判断しなきゃダメなんです。FOMAの900iシリーズを出すときには僕が決めたんですよ。僕が責任をとるから、と。でも事業部長レベルだと責任を取れないんですよ。経営側がやらないとだめですね。そうしないと思い切ったデザインの採用はできない。
神尾 そこで問題になるのは、経営者がデザインに責任を取りたがらないことと、経営者のセンスがいまひとつなこと。例えば、自動車メーカーの経営者にインタビューするとですね、彼らはデザインにすごくこだわりがあるし、一家言を持っている。しかし、日本の携帯電話キャリアやメーカーの経営層と話をしても、彼ら(自動車メーカーの経営層)ほどデザインを熱く語らない。「デザインアイデンティティは?」とたずねても、きちんと答えられないのです。デザインへの哲学や理念を、あまり持っていない。
夏野 関心がないんですよ。
神尾 それを言ったら、実もフタもないですが(苦笑) しかし、実際のところ経営層がデザインに無関心だとしたら本当にもったいない。細かい部分の作り込みや細かいニーズのくみ上げはできているのに、残念な結果になっていると思います。
ITmedia 2010年のAndroid端末は、iPhoneを強く意識したものが多かったと思いますが、この点についてはどうお考えですか?
夏野 Androidは、iPhoneと戦うというよりは、普通のケータイに変わるために、もっと小さい形あるいはタッチパネルなしのものとかをどんどん出していかないと。スマートフォンという領域では、iPhoneに一日の長がありますよ。
遠藤 同じところを狙ってもしょうがないですよね。ソニー・エリクソンが海外で出した「Xperia X10 mini pro」を一時期使っていたことがあるんですけど、たまごっち的なかわいさがあるんですよ。
夏野 あれは王道路線だと思います。ケータイメーカーがやるべきAndroid戦略ですね。
遠藤 ケータイの生きるよすがというと、形の制限がないわけだから、ある種、身体論的な領域に入ってくると思うんですよね。そういう意味では、ヘルスケアとかスポーツ用品とかと近いところに行くことができる。もう1つは、アンビエントコンピューティングということが言われていますが、要するに身の回りのあらゆるものにIPが入っちゃうというようなことですね。初代iPhoneとかよりもさらに桁違いにシンプルなものだって欲しい人がいるわけですよ。ケータイメーカーは、iPhoneみたいな感じの従来型ケータイを作りそうな雰囲気がありますが、ケータイがiPhoneと競ってもしょうがないんですよ。
夏野 ケータイをAndroidベースに変えるのがいいんですよ。僕は極端な話、このままケータイのOSをAndroidにするのが一番いいと思いますね。
遠藤 そうですね。
神尾 iPhoneと同じスタイルを追いかけると、結局iPhoneが一番をずっと走り続けますからね。評価軸としても、iPhoneにどれだけ近づいたか、でしか評価されないですから。
遠藤 GoogleがAndroidの発表会をやったとき、僕の知り合いのテレビ局の人が、いろいろ聞いてきたんですが、結局「iPhoneみたいなのが出ました」というのが第一報なんですよ。でも、iOSとAndroidの世界って、ベースが全然違いますよね。ちゃんと見るとコンセプトは全然違うし、目指しているところも全然違う。
夏野 GoogleとAppleはまったく違う。ところが、製品を作っている人たちはiPhoneを狙い過ぎるんですね。もちろん、中にはiPhoneに勝つことを目標にする端末もあってもいいとは思うんですけど。
遠藤 画面にアイコンが並んでいて、アプリを使うところだけ見ていると似ているんだけど、そのコンセプトはまるで違っている。iPhoneというのはまさに電話で、“1つのアプリを起動して使い終わったら受話器を置くように必ず終わらせる”というものです。それに対して、Androidというのは、ぬるぬると納豆みたいにつながっていく世界なんですよ。Webブラウザみたいに、アプリからアプリに戻れたりする。インテントによって、アプリとクラウド上のサービスが、ほぼ自由にマッシュアップできる。ところが、現状は、iPhoneを見て端末を作っているので、ぬるぬる式のUIが事実上まるで生かせない端末すらある。一方、アプリ開発者も、iPhoneアプリを見て作っているのでAndroidの良さが生かせてないんですよ。
iPhoneなどのスマートフォンでは、Webブラウザは使わなくなってきているという話がありますね。例えば、飲み会のお店を探すようなときに、ケータイでも「渋谷 焼き鳥」とか検索したのに、iPhoneだと「ぐるなび」アプリを起動する傾向が高いんです。ということはどういうことかというと、例えば、私がWeb上であるサービスを立ち上げたとしますね。そのサービスを流行らせるにはiPhone上でそのアプリを流行らせるしかないんです。これは、かなりハードルが高いことだと思いますが。それに対して、Androidの場合には標準で入っているアプリや人気アプリがはきだすデータの受け渡しの仕組み、「インテント」に合わせてやれば、すぐに連携できる。
例えば私がグラフィック関連のサイトをやっていたとしたら、Androidのギャラリーの「シェア」ボタンから、一発で私のサイトにデータが送れてしまう。Androidは、ちょうどFirefoxの「Shareholic」や「Sharethis」といったアドインのように、いま見ているものを何でもポイとどこにでも投げておける便利さがある。つまり、iPhoneはアプリプレイヤー、Androidはクラウドとアプリをつなぐデバイスということです。それくらいiPhoneとAndroidはまるで違う道具なんです。
iPhoneをイメージして端末が作られている段階では、Androidは全然発展のしようがない。つまり、端末はダメだけど、Androidの素性はいいんじゃないかな、ということをいいたいんです。
夏野 そうですね。
遠藤 Android端末を使っていると、いま見ている画像でも映像でもサイトでも何でも、ポイとどこかに投げられる。投げる先はメールでも、Twitterでも、Dropboxでも、Evernoteでも、ずっとマイナーなアプリやWebサービスでもいい。この自由さと効率のよさは、使いこなしてみないと分からない部分がありますね。だから、Androidはとても期待できるものだと思うんだけど、肝心の端末やアプリがそれを理解していないところがある。
ITmedia Android端末は違う世界を志向したほうがいいということですね。
遠藤 Androidは、ここ1、2年のネットのソーシャル的な使い方とすごく相性がいいんですね。もう1つ言えるのは、Appleは1社で1個という限られた世界なので、本来登場してもよいものを潰しているようなところがある。Appleは、基本的に自分たちのやりたいものしか作らない会社なので、それ以外の世界のほうが広いんだからやれることはたくさんあるんですね。だから、Androidは、もっと自由になんでもやればいいんですよ。
アスキー・メディアワークス アスキー総合研究所所長の遠藤氏から提供いただいた、iPhoneとAndroid端末のユーザー像。2010年10月に実施したMCS(メディア&コンテンツ・サーベイ)2010のパネル7500人をランダムに抽出して調査している。こうしてみると、10月の時点ではまだAndroidが一部のリテラシーが高いユーザーのものにとどまっていることが分かる。2011年以降、この結果がどう変わっていくのかに注目だ。
MCS 2010の詳細は、アスキー総合研究所のWebサイトで確認できる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.