「VAIO Duo 11」を“徹底解剖”して語り尽くす完全分解×開発秘話(後編)(7/7 ページ)

» 2012年12月21日 17時15分 公開
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最初から製造まで考慮してボディを設計

 これでVAIO Duo 11の分解作業は完了したが、複雑なスライド機構や凝ったパーツのレイアウトを目の当たりにすると、製造にはかなりの時間と手間がかかり、ひょっとして歩留まりが悪いのでは、と思われるかもしれない。

 しかし、実際は鈴木氏が「タクトタイム(製造に要する時間)が従来製品に比べて遅いということはない。部品点数もそう多いわけではなく、組み立てはむしろ早いくらいだ」と述べるように、VAIO Zより短時間で無理なく製造できるという。

 VAIO Duo 11は長野県安曇野市のソニーイーエムシーエス・長野テクノロジーサイトにおいて、9月末ごろから生産が開始されたが、ここでは企画から開発、調達、製造、品質保証に至るまで、1カ所で連携したモノ作りが行われている。従来とまったく違う新設計のVAIO Duo 11を、Windows 8のリリースと同時に発売できた背景には、この緊密な協力体制があるのだ。

 「VAIO Duo 11の製造ではキーボード/パームレストカバーの裏面から基板類を取り付けて行くが、液晶ディスプレイ部をつなぐケーブルは短いうえに特殊なヒンジ機構を採用したため、従来機と同じやり方では接続できない。そこで専用の治具を作ってもらい、ケーブルを効率よく接続できるようにした。このように、最初から組み立て方まで製造担当と話し合って設計できるのは、安曇野の強み」と浅見氏は力説する。

 ちなみに数あるVAIOのラインアップでも、安曇野生産の“Made In Japan”モデルはVAIO Zなど一部のプレミアムな製品だけだ。その製造拠点からもVAIO Duo 11がVAIOノートの新ラインアップにおいて、フラッグシップを担う存在であることが分かる。

アルミニウム製のキーボード/パームレストカバーから、マグネシウム合金製の部品を取り外した状態の表面(写真=左)と裏面(写真=右)。製造においては、マグネシウム合金のダイキャストで作られた部品に、裏面から基板類を組み込んでいく。アルミニウム製のカバーは基本的な外形をプレスで作り、内側で薄くできる部分を削って仕上げている。「単純にプレスで作ると角に丸みが出てしまい、先鋭的なイメージ通りにならないので、プレスでもしっかりエッジ感が出るようにベンダーと苦労して作り込んだ」(浅見氏)

Windows 8と同時発売での高い完成度に驚かされる新感覚モバイルPC

 最後に毎度恒例だが、取材に応じていただいた3人にVAIO Duo 11の満足度を100点満点で自己採点してもらった。

 商品企画の金森氏は「新しいOSの発売タイミングに合わせて新しいフォームファクタを実現でき、さらにデジタイザスタイラスに対応することで、VAIOの新しい価値を提供できた。まだ進化の余地はあるが、まずは現時点で実現できることをやりきり、かつてない新しいスタイルのPCを送り出せたため、100点以上は確実、200点といってもいい」との回答だ。

 機構設計を担当した浅見氏も「今回新しいフォームファクタを実現するにあたり、最大の挑戦となったのはスライド機構だが、現時点でやれるところまでやりきった。そのうえでパームレストにアルミニウムを使って質感を高め、キーボードなど全体の剛性感も出せたので、100点としたい」と満点の評価をつけた。

 開発を取りまとめた鈴木氏は「2012年10月26日、Windows 8と同時発売の新製品という意味では100点。その時点で技術陣が最高の仕事をして、いい品質のいい製品ができたと思う。ただ、我々は時間軸の中で仕事をしているので、発売が1カ月後だったら、さらに品質を上げたり、違った機能を入れたりと、その延びた時間も含めてベストを尽くすことになる。次のモデルではさらに高いハードルを自分に課して、開発に取り組んでいきたい」と、その完成度に納得しつつも、次はさらなる高みを目指すという。

VAIO Duo 11を構成するパーツ群。複雑なスライド機構や凝ったパーツのレイアウトを採用しながら、組み立て工程の工夫もあり、VAIO Zより短時間で製造できるという

 今回話を伺った3人がそろって満点(かそれ以上)の出来栄えと語るVAIO Duo 11。2回に渡りお届けしたロングインタビューを通じて、その自信を裏付けるだけの妥協なきこだわり、数々の名機で蓄積してきた開発ノウハウと独自技術、そして並々ならぬ開発陣の苦労が、このコンパクトボディに凝縮されていることを再認識した。

 かといって、実際の利用シーンでは、これ見よがしに新しいスライド機構が主張し過ぎるわけではなく、ワンアクションで手軽に滑らかに開閉できる液晶ディスプレイ部の動作があまりに自然なため、細部に至るまで作り込まれた複雑なヒンジ部をユーザーが強く意識することはない。さりげなく、ものすごく難しいことをやってのける――この部分にこそ鈴木氏が掲げた「品位」の美学が具現化されているのだ。

 難度が高いスライド機構を搭載したうえで、11.6型フルHD液晶ディスプレイ、10点対応のタッチパネル、筆圧検知が可能なデジタイザペン、S-Masterにも対応した高音質技術、バックライト付きの約18ミリピッチキーボード、光学式ポインティングデバイス、そして豊富なインタフェースまで網羅しており、ボディは17.8ミリ厚、約1.3キロまで絞り込んできた。知れば知るほど「この小さなボディに、よくぞここまで詰め込んだ」と思わずニヤリとさせられる。

 ここまで凝ったハイブリッド型モバイルノートPCをWindows 8の発売と同時に量産出荷できる体制を整えてきた点にも注目だ。ソニーは2010年4月、それまで東京都と長野県に分かれていたVAIOの開発担当を長野県安曇野市に集結させることで、製品開発の効率化を図ってきた。その効果はクラムシェル型モバイルノートPCのVAIO ZVAIO Sでもみられたが、今回のVAIO Duo 11に至り、企画、開発、製造、品質保証のスピーディな連携が最大限に発揮されたといえる。

 VAIO Duo 11は、Windows 8世代のハイブリッド型モバイルPCとして初期の製品ながら、ユーザーの利便性を考慮して細部までよく練られており、その完成度はとても最初のモデルとは思えないほど高い。この冬、Windows 8搭載モバイルノートPCの購入を検討しているならば、まずは実機に触れてチェックしておきたい1台だ。

 Windows 8世代のハイブリッド型モバイルPCにおいては、既存のデスクトップ操作とタッチ操作をどのように融合すべきか、PCメーカー各社がさまざまな形状を提案しており、世代を重ねるごとに、徐々に洗練されていくだろう。その中にあって、いち早くVAIO Duo 11を投入できたソニーは、今後も存分に安曇野産の強みを生かしていけるはずだ。

←・完全分解×開発秘話(前編):「VAIO Duo 11」の“上質なスライドボディ”を丸裸にする

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