インタビュー
» 2011年12月09日 10時25分 UPDATE

「夜中の1時にドン・キホーテへ行け」――ユードー南雲氏に聞く ヒットアプリの作り方 (1/2)

「PianoMan」「Aero Guitar」「斉藤さん」「pompa」など個性豊かなアプリを開発しているユードー。同社のアプリは累計1000万ダウンロードを超え、着実に支持を集めている。売れるアプリを作る秘訣とは? 同社代表取締役の南雲玲生氏に聞いた。

[田中聡,ITmedia]

 iPhone向けを中心にアプリ開発を手がける「ユードー」をご存じだろうか。

 ユードーの名前を知らなくても、同社が開発したiPhoneアプリ「PianoMan」「Aero Guitar」で遊んだことがある人は多いのではないだろうか。いずれもリズムに合わせて画面をタップするだけで楽器を演奏できるシンプルな操作性が受け、全世界でPianoManは約500万ダウンロード、Aero Guitarは約460万ダウンロードされるほどのヒットアプリとなった。これらの音楽ゲームのほか、共通の趣味から友達を探してお絵かきチャットや電話ができる「pompa」や、“全国の斉藤さん”と通話ができる「斉藤さん」などのソーシャルアプリも人気を博している。自分で描いたモンスターを使ってバトルができる「テガキモンスター」も話題を集めた。

 コナミ在職中に音楽ゲーム「beatmania」を企画・制作したことでも知られる同社代表取締役の南雲玲生氏は、2003年にユードーを立ち上げ、サウンド、ビジュアル、ヘルスケアなどをテーマに数々のアプリを手がけてきた。数あまたのアプリが増え続けているスマートフォンにおいて、ユードーはどのような姿勢でアプリを開発しているのだろうか。「SNS」と「ゲーム」を主なテーマとし、南雲氏に話を聞いた。

二言三言の説明が必要なアプリは売れない

photo ユードーの南雲玲生氏

―― PianoManとAero Guitarがヒットしましたが、iPhoneアプリの開発で「音楽」に着目した理由を教えてください。

南雲氏 音楽だと世界に発信しやすいんです。曲だけ変えれば国ごとにローカライズできます。あと、スマートフォンユーザーはヘッドフォンを付ける人が多く、音楽との親和性が高いというのもありますね。

―― 画面をタップするだけで演奏できるので、すぐに遊べます。シンプルな操作性にもこだわったのでしょうか。

南雲氏 楽器屋さんでちょっとギターを弾いてみる感覚に近いですね。叩いたらストレスなく音が出ることがとても重要です。シンプルで余計な機能を入れず、HELPがなくても遊べるぐらいがいいですね。どんなアプリでもそうですが、最初から多機能にするとダメなんです。

photophoto 「PianoMan」(左)と「Aero Guitar」(右)。PianoManは鍵盤の上、Aero Guitarは指の横をリズムに合わせてタップし続けると演奏できる

alt PianoMan

alt Aero Guitar

photo 自分の周囲をランダムに録音してくれる「キオクレコーダー」

―― 多機能にして失敗したこともあるんですか?

南雲氏 日常を断片的に録音し続けてくれる「キオクレコーダー」というアプリを出したんですが、売れませんでした。ダウンロードは1日に1か2。よくて10とかです(笑)。GPSと連動して「どこで何をしゃべった」かを記録できて、こんなにいいツールなのに……と思ったのですが。アプリの内容が二言三言説明しないと理解できないものは、まずうまくいかないと分かりました。

―― 個人的にはキオクレコーダーの方が他のヒットアプリよりも面白そうです。機能もシンプルだと思いますが。

南雲氏 メディア受けはするんですよね。でも勝手に録音するという概念がこれまでなかったので、多くの人は想像できないんです。想像できないアプリはダメですね。アプリを開発する上で口を酸っぱくして言っているのが「夜中の1時にドン・キホーテへ行け」です。なぜドン・キホーテの駐車場で倖田來未やEXILEの曲を聴いているのか? 常に、最新のネットのニュースやガジェットの情報を見ているリテラシーの高い人からすると、そこの感覚が分からないんです。日曜日のイオンモールでもいいです。そこにいるお客さんが、どんなアプリをいじっているのかをチェックしようよと社内で呼びかけています。

alt キオクレコーダー

―― そういったリサーチから見えてきたものもあるんですか?

南雲氏 ありますね。松任谷由実さんが、外苑西通りのデニーズでお客さんを観察しながら詩を書くという話を聞いたことがあります。それに影響を受けたのか、一般の人を見て感じながらゲームを作るようになりました。beatmaniaを作るときも、ゲームセンターに1週間入り続けました。

―― それはゲームの内容を見ているんですか? それともゲームで遊んでいる人を見ているんですか?

南雲氏 ゲームで遊んでいる人です。彼らが着ている服や、興味を持っていること、何が一番幸せなのか、といったところですね。洋服はどうでもいいという人が多いけど、有名になりたいという欲がある。ゲームの中だけでもヒーローになれるよう、普段は抑圧されているところをかき立ててあげるわけです。アンケートで聞いても本音を書いてくれないので、現場に行かないと分からないですね。

―― スマートフォンユーザーの趣味嗜好も、そいった現場から分かるものはあるんですか?

南雲氏 ありますね。昔、家庭用ゲーム機でゲームをすれば、すごい世界観に入れたように、皆がスマートフォンに求めているものも“非日常的なこと”なんです。ケータイじゃなくてせっかくスマートフォンに替えたので、これが面白いことを教えてくれるのでは……と宝箱のように感じている人が多いと思います。

テキストの次は“音声のSNS”が来る

photophoto 「斉藤さんはこちら」に登録した人と通話ができるアプリ「斉藤さん」。「斉藤さんと話す」をタップすると、登録した斉藤さんへランダムに発信する。通話が終了すると判子が押される

―― 「斉藤さん」は、プロモバで紹介したときもたくさんの反響がありました。アプリはあくまで実験的なもので、コールセンターなど企業向けに使うことを狙っていくのでしょうか。

南雲氏 斉藤さんでは、その方向(企業向け)と“電話のSNS”を作ることを目指しています。テキストベースではなく音声のSNSです。

―― 音声の、ですか。SNSというと、テキストベースのチャットが主流というイメージが大きいのですが。

南雲氏 そこをあえて音声に、です。僕は「時代はまた繰り返す」と思っていて、テキストのコミュニケーションの次は、多くの人はぬくもりを求めて「声」のコミュニケーションに移るのではと考えています。斉藤さんとpompaユーザーの伸びを見ていると、それは間違いではないと確信しました。

―― 私も斉藤さんを使ってみましたが、「斉藤さんと話す」を選ぶといきなり電話がかかってびっくりしました(笑)。全く知らない人と話すことに物怖じする人は多いと思いますが、それでもユーザー数は伸びているんですか?

南雲氏 伸びています。話すことに対するスタンスは、平成生まれと昭和生まれで大きく違っていて、例えばpompaでプロフィールに顔写真を登録している人は大学生が多いです。30代以上は「出会い系じゃんこれ?」と思う人が多く、20代後半は「本当は使っているけど言うのが恥ずかしい」という人が多い。音声で話すのもプロフィールに顔写真を出すのも、10代や平成生まれの20代前半は抵抗ないんです。

 僕もpompaを使っていますが、毎日女の子から電話がかかってきます。プロフィールに名前は出さずにキャラクターの写真を設定していますが。男性じゃなくて女性からかかってくるのがミソです。今のユーザー数はpompaが1日1000人くらい、斉藤さんが6000人くらい増えています。毎日それだけ増えているということは、話したい人が多いんです。それがごく一部の現象には思えないですね。

photophotophotophoto 「pompa」では、あらかじめ用意された公式カテゴリーや、自分が興味のあるワードから検索してユーザーと通話やチャットができる。チャットは手描きをしながら行える。TwitterやFacebookの友達ともコミュニケーションを取れる連携機能も用意した

―― 女の子から電話がかかってきて、どんなことを話すんですか?

南雲氏 他愛のない普通の会話ですね。そういった女の子たちが出会いを求めているかというと、そうではないんです。家に帰ってきて単に話し相手が欲しい。話を聞いてもらいたい、話をすることで安心したい……自己の存在を確立したいのだと思います。

―― 親や友達、彼氏ではなくpompaで知らない人と話すんですね。

南雲氏 身近に話せる人がいないんでしょうね。リアルにつながりのある人の方が相談しにくいこともあるでしょうし。ネット上のいろいろな考えを持つ人と話ができることも大きいでしょうね。僕は昔アマチュア無線をやっていたので分かります。アマチュア無線は免許を持ってないとできない閉鎖的な面がありましたが、そういうコミュニティが確かにありました。

―― 斉藤さんが面白いのは、1度話した人ともう1度(履歴などから)話せないことです。一期一会の世界で、出会い系とは一線を画しています。

南雲氏 まさにそうで、斉藤さんを使うことで「ぬくもりと切なさ」を感じてほしいと思っています。「1回しか話せない」ところに、時間を大切にしようという想いが生まれます。通話しかできない斉藤さんに対して、いろいろできるのがpompaです。この2つのコンセプトは真逆で、斉藤さんでは履歴からの通話やチャットなどの機能をあえて省いてユーザーが選択できないようにしました。pompaは同じ相手と何度も話せますし、Twitterとも連動もしています。まず斉藤さんを使い、それからpompaも使うという人が多いですね。

―― アプリの名前はなぜ“斉藤さん”なんでしょうか。田中さんや佐藤さんの方が一般的な名字ですが。

南雲氏 田中さんや佐藤さんにすると、「ユーザーを増やすために裏がある」と読まれるんじゃないかと思ったのでやめました。斉藤さんくらいにしておくと、ジョークだと思ってもらえるかなと。あと、「斉藤さん」というドラマにも影響されています(笑)。

―― 「全国の斉藤さんと通話ができる」ということですが、「自分が斉藤さん」だと思えば誰でも登録できますからね。斉藤さんはあくまで便宜上の名前ですよね。

南雲氏 そうです。みんなそういう使い方をしています。中には「はい斉藤です」と出てくれる人もいて面白いですよ(笑)。

―― 別バージョンで「田中さん」や「鈴木さん」を出す予定は……。

南雲氏 それをやると狙っていると思われるので、斉藤さんを深くバージョンアップしていく方がいいかなと。

―― 斉藤さんはやはり若いユーザーが多いのでしょうか。

南雲氏 10代や20代が多いですね。40代は使わない。30代のユーザーも少ないですね。

―― SNSの1つの方法として、生の声をやり取りすることが軸になってくると。

南雲氏 ええ。直近ではソーシャルゲームに力を入れていますが、5年後くらいの中期的な将来を考えて、今から種をまいているところです。

―― 斉藤さんのシステムを企業に導入する取り組みは、実際に行っているのでしょうか。

南雲氏 斉藤さんのアプリ自体を導入しているわけではありませんが、斉藤さんの電話のシステムを使って、iPhone、Android、PCでテレビ電話ができるカスタマーサポートは導入しています。今後は専用端末を使い、自治体が高齢者とコンタクトを取るための実証実験も検討しています。

alt 斉藤さん

alt pompa

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