今回のラインアップ一新で、ある意味、最も熱い注目を集めている新製品が「iPod nano」だろう。第6世代目となる新iPod nanoは、iPhone、iPod touch、iPadに続く4つめのマルチタッチ液晶搭載モデルでもある。この製品の登場により、アップルのマルチタッチ製品戦略が、1.54インチから9.7インチまで3つの画面サイズに広がった。
もっとも、iPod nanoはほかの3製品と異なり、iOSを搭載していない。見た目こそiOSにそっくりだが、操作方法にも細かな違いが目立つ。例えば、iOS搭載製品には必ずホーム画面に戻るための「ホームボタン」が用意されているが、iPod nanoにはこれがない。
それではどうやってホーム画面を表示するかというと、実はiPodのルールに基づいている。iPodのメニュー画面のルールは、初代iPod以来一貫している。画面で何かを選択すると、その右側に、選択した項目の詳細が現れるのを覚えているだろうか。つまり、iPodでは1つ上の階層の親メニューは、今現在表示されている画面の左側に隠れていることになる。
新iPod nanoでは、画面を指で右方向にフリックしていくと1つ上の階層の画面が表示される。この右方向フリックの操作を繰り返していけば、いずれは最上位階層であるホーム画面にたどりつける、というのがiPod nanoの基本操作だ(画面の長押し操作をすると、途中の階層を飛ばしてホーム画面に戻れるので、これがホームボタンの代わりといえるかもしれない)。
もっとも、これを少し複雑にしているのは、ホーム画面のアイコンをタップしたときに左スクロールの動作ではなく、普通にiPhoneアプリケーション同様にズームアニメーションで起動してしまうこと、またホーム画面を表示した状態で左右にフリックすると、(1画面に4つのアイコンしか表示されない)ホーム画面の左右ページが表示されることが理由だ。このあたり、操作に一貫性がないといえばないが、取り立てて大騒ぎをせずとも、すぐに慣れるといえば慣れる。
iPod nanoとiOS系デバイスには、もう1つ違いがある。iPhoneなどのiOS機器は、本体を横に傾ければ横表示、縦にすれば縦表示と、モーションセンサーで本体の傾きを検出して、画面表示の向きを自動的に合わせてくれた。
しかし、新iPod nanoでは、表示画面を90度単位で好きな向きに変えられるものの、変更するには画面に指2本を押しつけて、ねじるような動作をしないといけない(指が太い人は、少し苦労するかも)。これはおそらく、iPod nanoをシャツなどにクリップして持ち歩くのを想定しているためだろう。歩いたり走ったりする際の振動にさらされて、下手に画面がクルクル回転し続けるよりは、手動操作にしたほうがいい。
iPod nanoのホーム画面は、iOS搭載デバイスと同様に、アイコンの長押しでアイコンがプルプルと震えはじめ、表示位置などを好きにアレンジできる。ホーム画面は基本的に4ページ構成だが、まだまだアイコンを登録するスペースがある。何かほかにもアイコンは表示されないかと試行錯誤をしていたところ、本体にマイク付きヘッドフォンを差したら「ボイスメモ」のアイコンが表示された(付属のヘッドフォンはマイクなしなので表示されない)。
これまでのiPodにも他社製ゲームが販売されていたが、今後、iPod nano用のゲームアプリケーションなどが提供されれば、さらにアイコンが増える可能性もなくはない(ただし、現在のiTunesでは、同期画面に「アプリケーション」という項目は表示されないので、iTunes側のアップデートも必要かもしれない)。
このほか細かい違いとして、画面のスライドロック操作もない。iOS機器はポケットの中やカバンの中で、勝手にほかのものに触れて誤操作がおきないように、電源ボタンを押すと画面にスライダーが表示され、これを指でスライドさせないとロックが外れないようになっている。これに対して新iPod nanoでは、上部の電源ボタンを押せばすぐに使える状態だ。というのも、この製品はポケットの中にいれるのではなく、洋服やベルトなどにクリップして取り付け、露出した状態で使うことを想定しているからだ。
音楽再生中などには、再生中の曲のジャケットが画面に表示されるが、それを衣服に身につけるわけで、(選曲のよさに自信があるなら)自分の音楽の趣味のよさをアピールするファッションアイテムとしても活躍しそうだ。また、ジャケットの袖に装着すれば腕時計代わりに使うこともできる。
さて、今回そもそもiPod nanoがマルチタッチ操作に対応したのは、本体の小型化のためだ。新iPod nanoはクリップを含めた容積で比較しても第2世代(2008年モデル)のiPod shuffleと同程度だ(約15%ほど大きい)。
旧iPod nanoと比べて容積は46%小さく、重量も42%軽い。実際、新iPod nanoと新iPod shuffleを2つ縦に並べたほうが、旧iPod nanoよりも面積的には小さいのだから驚かされる(クリップ部分を無視すれば厚さもあまり変わらない)。もちろん、底面の30ピンドックコネクタもきちんと備えており、iPod nano用スピーカーなどのアクセサリーにつないで試したところ、ちゃんと利用できた。
ただし、新しいnanoでは、旧nanoと比べて、小型化のためにそぎ落とされている機能もある。まず1つはスピーカーがなくなったことで、本体にヘッドフォンをつながないことには一切音が出ない(かつてのiPodにはホイールを回す音やアラーム音をならすだけの簡単なスピーカーを内蔵するものがあったが、新nanoに関しては一切内蔵していない)。
もう1つ、動画関連の機能も省かれている。前モデルではビデオカメラを大きな売りの1つとしていたことを考えると正反対の動きだ。新nanoでは、ビデオカメラ、というよりカメラ類が一切備わっていない。しかし、それ以上に驚いたのは、動画の再生機能も搭載していないことだ。ミュージックビデオやビデオPodcastを同期して転送することはできるものの、再生すると画面は止まった状態で音だけが聞こえてくる。その一方で、ラジオの視聴機能や歩数計機能、Nike+との連携、写真アルバムの表示機能はしっかり継承している。
ラインアップには、1万3800円の8Gバイトモデルと、1万6800円の16Gバイトモデルの2種類があるが、実はどちらも前のiPod nanoより1000円ずつ安くなっている。小ささが売りのnanoだったが、最近ではあまりに軽く薄くなりすぎて、どのポケットに入れたのか分からなくなることも多かった。今回のようにクリップオン方式で身につけられるようになったことは、その点ではよかったように思う。ただ、動画再生が必須の人は今度のiPod nanoはあきらめて、より薄くなったiPod touchへ切り替える必要がありそうだ。
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価格は8Gバイトが1万3800円、16Gバイトが1万6800円。
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