スマートフォンのデザインは、端末を選ぶ決め手の1つになるほど重要だ。毎日使う携帯電話だからこそ、端末のデザインがありきたりなものだと、なかなか長くは愛用してもらえないだろう。中国のZTEは何を重視してスマートフォンのデザインを手がけているのだろうか。ZTEが6月19日から21日まで上海で実施したメディアツアーで、携帯端末製品部門 IDデザイン部 部長のガオ・フォン(高峰/Gao Feng)氏と、携帯端末製品部門 携帯端末部 ID部 IDデザインディレクターのチェン・ジーユエン(陳志遠/Chen Zhi Yuan)氏に話を聞いた。
ZTEのデザインセンターには約400人のスタッフが従事しており、UI(ユーザーインタフェース)やメカニックデザインなども担当している。デザイン部門は主に中国に構えているが、「ドイツにも設計チームがあり、米国でもチームを作っているところ」(ガオ氏)だという。
そんな同社がデザイン哲学に掲げているのが「親」「新」「簡」「思」の4文字。親には「親近感」「人に対して優しい」といった意味を込めており、機能だけでなく人々のニーズをくみ取る姿勢も示す。新には文字どおり「新しいものを作る」「イノベーションを起こす」といった意味が込められている。簡には「シンプルにして使いやすさを追求する」に加え、「デザインを美しく」といった意味も含まれる。思には「社会に貢献する」という思いを込め、リサイクルできる素材を使う、環境に影響のある素材は使わないなどの取り組みに反映されている。これらの哲学は2011年末に決められたという。それまでは「恋人に花をプレゼントすること」をコンセプトにしており、花が製品、恋人が通信事業者などの顧客を意味する。現在の「親」「新」「簡」「思」からは、エンドユーザーや社会に配慮している印象を受ける。
世界中でヒットした「ZTE Blade」や「ZTE Skate」は、どちらかというとオーソドックスな形状だが、新機軸のコンセプトモデルも開発している。取材時に披露してくれたのは「Fantacsy」と「Double」というモデル(参考リンク)。Fantasyはパッケージそのものが端末の保護カバーになっており、「個装箱や物流コストを減らす効果がある」(チェン氏)という。このカバーを付けたままでも使用できるが、現時点では耐久性に課題があり、商品化には至っていない。Doubleはヒンジ部が360度回転するユニークなモデル。背面と裏面の2面にソーラーパネルを搭載しており、180度開いた状態で太陽光から充電できる。360度回転させた状態で片側の画面を見ながら、裏側のタッチパッドでスクロールなどの操作もできる。
FantasyとDoubleはデザインが評価され、ドイツのレッド・ドットデザイン賞を受賞した(参考リンク1/2)。また、2006年に発売したディスプレイ部が回転する折りたたみ型携帯電話「King D300」も、レッド・ドットデザイン賞とiFデザイン賞を受賞した。ソフトバンク向け「みまもりケータイ 005Z」も上海オフィスでデザインしたものだが、こちらも2010年にレッド・ドットデザイン賞を受賞したという。このほか、ZTEは米国のIDSAと日本のグッドデザイン賞にも自社端末を申請しており、独創的なデザインの端末を世に送り出せるよう積極的に取り組んでいる。これまで受賞した国際的な賞は15個に及ぶ。
世界で800万台以上を販売したZTEのヒットモデル「ZTE Blade」は中国市場だけで200万台以上を販売したほか、手頃なサイズ感や135ドルほどの低価格が受け、その他の国でも支持された。このBladeから、ZTEは本格的にスマートフォンのデザインに同社の哲学を具現化し始めたという。Bladeという名前の通り「刀」をイメージした曲線を設け、斜めにカットしたサイドキーを搭載した。もう1つの普及モデル「ZTE Skate」はスケートボードをイメージした。一方、ZTEがハイエンドな新シリーズとして展開する「Grand」の端末はBladeとは異なるデザイナーが手がけ、シャープなBladeに対して丸みを帯びた形状を強調している。ちなみに、GrandはLTE対応のデュアルコアCPU搭載機「Grand X」と、LTE対応のクアッドコアCPU搭載機「Grand Era」をラインアップ。Xは中国で発売中で、欧州やアジアなどで2012年代3四半期に発売予定。Eraは2012年末の発売を予定している。
外観のデザインに加えて、UIのデザインも満足感を大きく左右する。ガオ氏によると、「親」「新」「簡」「思」のデザイン哲学はUIにも反映されているという。その際に重視するのが通信事業者の要望をくんだカスタマイズだ。ZTEでは「現地キャリアに向けてカスタマイズして、リーズナブルな価格で提供することを社是としており、グローバルモデルをそのまま各国に売りつけることはしない」(ガオ氏)という。例えば日本のソフトバンク向けには、見やすくケータイ風のホーム画面をプリセットした「シンプルスマートフォン 008Z」、防水やワンセグも備えて独自のホーム画面を用意した「STAR7 009Z」もUIは日本仕様になっている。子ども向けのみまもりケータイも日本発の端末だが、ZTEは海外への投入も検討している。
一方、「Mifavor(マイフェイバー)」と呼ばれるZTE独自のUIも開発し、Mobile World Congress 2012で披露した(参考リンク)。ホーム画面は最大9ページのスクリーンにZTE独自のウィジェットなどを使えるシンプルなもの。Mobile Asia ExpoのZTEブースで展示していた中国発売のGrand Xには、3D壁紙や3DUIを採用した最新バージョンがプリセットされていた。同じくブースに展示していた「Grand X LTE(T82)」のUIがAndroid 4.0の素の状態だったのは、カスタマイズ前だったためだ。この3DUIを搭載できたのは、高度な3D処理をサポートするQualcommの最新チップセット「Snapdragon S4」によるところが大きいようだ。「S4をすぐに取り込み、ZTEの開発スピードを生かせた」(ガオ氏)
UIのみならず、通信事業者の要望によって本体色や塗装を変えることもある。材質を変えることは基本的にはないが、こすれにくいもの、壊れにくいもの、質感で滑らかさを追求するなどの場合に塗装を変えることはあるようだ。7色をラインアップする009Zなど日本では色に対する要望が幅広いが、ガオ氏によると、中国ではブラック、ホワイト、シルバーが定番色だという。「カラー、マテリアル、フィニッシング、グラフィックを手がけるCMFチームが、各国の文化に合わせて材質やカラーを調整している」(ガオ氏)
端末をデザインする上で制約となるのが、幅に影響するディスプレイと、厚さや重さに影響するバッテリーが大きいという。バッテリーは取り外し可能なタイプにすればサイズは小型化できるが容量は少なくなる。完全内蔵タイプにすれば容量を上げてサイズや重さにもメリットがあるが、使い勝手は損なわれる。このあたりは通信事業者の要望を聞いて判断するとのこと。このほか、「カメラモジュールを搭載するには厚みが必要になる。またスピーカーは中のアンテナと干渉することがあるので、アンテナの精度を上げるためにアンテナの位置を変えることもある」(ガオ氏)という。
端末戦略担当のリュ・チエンハオ氏はデザインについて「端末を見ればすぐにそのメーカーだと分かってもらえるよう、会社の文化と価値観が込められたDNAが必要」と話していた。ZTEのデザイン哲学「親」「新」「簡」「思」が、今後どんなDNAに昇華されていくのか注目したい。
デザイン部門のインタビューをするにあたり、ZTEの上海オフィスとショールームを訪れた。1985年に設立したZTEは、中国深センに本社を構える。研究開発を行うR&Dセンターは深センと上海を含めて中国に11カ所、欧米やインドに7カ所(計18カ所)あり、年間売上のうち10%はここでの研究開発によるもの。従業員は7万19人に及び、グローバルで107支社を構える。ちなみに上海のR&Dセンターには6000人が働いている。現時点で最大規模のR&Dセンターは、約1万2000人の社員を擁し、ネットワーク設備を開発している南京オフィスだが、LTE製品を手がける西安(シーアン)のR&Dセンターが将来的には最大規模になる予定。物流センターやカスタマーセンターも豊富に擁している。
2011年におけるZTEの端末販売の成長率は対前年比50%増で、スマートフォンの成長率は世界1位。また2011年の携帯電話出荷シェアは世界4位となった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.