今回のIntelの基調講演を見ていて気付いたのだが、PC関連の発表がほとんど行われなかったためか、Windowsに関する言及がなかった。2009年12月に発表された新世代Atom Nプラットフォーム(開発コード名:Pine Trail-M)のNetbookや、次世代Atom Zのプラットフォーム(開発コード名:Moorestown)を用いたスマートフォンが各種紹介されていたが、それらはすべてMoblinがベースとなっていた。別にMicrosoftと仲たがいしたわけではないと思うが、「モバイル機器はMoblinでいく」というIntelのメッセージのようにも受け取れる。
Pine Trail-Mは、Atom Nのコアにノースブリッジの機能(グラフィックスコアやメモリインタフェースなど)を統合したCPU(開発コード名:Pineview-M)と、1チップ構成のIntel NM10 Expressチップセット(開発コード名Tiger Point)から構成される新しいNetbook向けプラットフォームだ。パッケージサイズの小型化や省電力、低コスト化の面でメリットがある。
一方のMoblinは、Intelが推進するLinuxをベースにしたモバイル機器向けのOSで、Atomを搭載したNetbookのほか、スマートフォンやMID(Mobile Internet Device)などでの動作に最適化されている。
ちなみに、Intel版App Storeとも呼ぶべき「Atom Developer Program」がスタートしており、開発と販売の両面から開発者を支援する環境がIntelより提供されているが、Atom Developer ProgramでターゲットとしているOSはWindowsだけでなくMoblinも含まれており、「AtomにはMoblinを」という姿勢がここでも現れている。
また、今後のモバイル機器向けAtomの課題としては、上記のソフトウェア開発支援に加え、Netbook以外の分野でのAtomの採用、例えばスマートフォンやMIDでの利用促進が挙げられる。この分野のCPUではARMが圧倒的シェアを誇っており、ARM系の高機能プラットフォームとしてはNVIDIAのTegraやQUALCOMMのSnapdragonなどが存在する。
壇上ではMoorestown搭載のLG電子製スマートフォン「GW990」などのデモが紹介されたが、今後はMoblinのさらなる改良やアプリケーション開発環境を整え、ソフトウェアの力でパートナーらをより多く取り込んでいく必要が出てくるだろう。
ホームエンタテインメント、モバイルと続いた同社の組み込みソリューション事例だが、よりインテリジェント化が求められる組み込み分野としては、ほかに車載オーディオやカーナビ、駅や売店などのキオスク、街頭広告や案内システム、監視システム(サーベイランス)などが挙げられる。街を歩いていると何気なく見かけるこれらの機器だが、年々高機能化が進んでいる。
基調講演ではデパートやショッピングモールなどで利用される電子案内板のデモが紹介された。欲しい商品を検索すると、現在のセール情報や店舗情報が表示され、文字通りアニメーション付きで案内表示してくれる。もしクーポンなどが用意されていれば、Bluetooth経由で手元の携帯電話にダウンロードすることも可能だ。日本では、イオンなどの店舗で同様のシステムが試験運用されている(イオン津田沼店など)。
こうしたシステムは広告連動が行いやすく、米国でもコーヒーショップやモールの入口に同種の電子広告、いわゆる「デジタルサイネージ」が設置されていることが多いため、今後さらに広がりを見せるだろう。地味な分野ではあるが、映画「バック・トゥー・ザ・フューチャー PART2」の近未来世界で登場した飛び出る街頭広告など、未来的な世界が徐々に身近になっていくようで、今後の展開が楽しみだ。
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