アップル流イノベーションが大きく花開いた2010年(後編)フィル・シラー氏に聞く(2/2 ページ)

» 2010年12月10日 14時00分 公開
[林信行,ITmedia]
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“入り口”はiPodからiPhoneとiPadへ

2010年6月にWWDC 2010で発表された「iPhone 4」

―― 今まさに製品の売り上げが大きく伸びる年末商戦期を迎えつつあると思うのですが、見通しはどうでしょう。アップル製品はあいかわらず、まだアップル製品を使ったことがなかった人たちへ浸透を続けているのでしょうか。

シラー 少し前までは、「iPodが最初のアップル製品」という人が増えていました。「PCは持っているけれどMacは使ったことがない。iPodでアップルというブランドの製品を初めて手にした」という方々です。そして実際にiPodを手にすることで、アップルがどういった姿勢でモノづくりにのぞんでいるかを感じ取ってもらい、それ以降もアップル製品に好感を持ってくれる方が大勢いました。

 今では「iPhoneが初のアップル製品」という人、そして「iPadが初のアップル製品」という方が急速に増えています。こうした方々も、やはりこれらの製品を通してアップルというブランドに好感を持ち、やがてはハロー効果、波及効果によってMacなどほかのアップル製品にも興味を持ってもらうということが起きています。我々は顧客にそれを押しつけようという気はありませんし、実際にそういうことはしていませんが、多くの方が自然にそうしてくださっているのです。これは最良の商品マーケティング方法だと思っています。

アップル製品は日本人の価値観にあう

―― そういえば、日本のトップアントレプレナーら500人近くが参加するIVSというカンファレンスに参加していたのですが、ここでも市場におけるマーケットシェアに反して、参加者の大半はMacを使っていました。

シラー それは我々にとってもうれしいことです。アップルの製品は、そうした方々の価値観に非常にマッチしていると思っています。日本にも最近、アントレプレナー(起業家)が増えていると聞きますが、我々はそうした方々が好んで選択するブランドという地位を確立しています。それはアップル自身が、規模は拡大してもアントレプレナーの志を持っているから、という部分もあるでしょう。

 一方で、アップルの製品は日本人の価値観にも非常にマッチしていると思っています。日本人は製品の美観やデザインといったものにも大変なこだわりを見せますが、アップルはその工業デザインにおいて有名な企業です。

 アップルはまた最先端のエキサイティングな技術を採用する企業でもありますが、日本人にはそうした最先端の技術が大好きな方も多いと思います。アップルは製品の品質で定評のある企業でもあり、我々は自ら「これでよし」と思うまで、製品を丹念にブラシュアップし続けています。そして日本の方々は、やはり製品の品質であったり、顧客サービスといったものに非常に重きを置く人々です。

アルミ板から削り出されたユニボディはMacの象徴的なデザインになった(写真=左)。アップル製品のデザインを手がけるシニアバイスプレジデント、ジョナサン・アイブ(Jonathan Ive)氏(写真=中央)。レーザードリルで精密な加工が施されていく(写真=右)。ユニボディの制作ビデオはアップルのWebサイトで見ることができる

 このように、我々アップルの価値観と日本人の価値観は、常に同期しているようなところがあり、それがこれまでの日本市場におけるアップルの大きな成功を支えてきた部分があるのだと思っています。

―― 確かにその通りですね。最先端のITにかかわる人々やクリエイターの集まりというと、いわゆる一般のマーケットシェアの傾向に反して、ぐっとMacユーザーの比率が増える印象があります。それもこの価値観の親和性が関係しているのかもしれません。

シラー そうかもしれませんが、ただし我々はマーケットシェアであるとか、そうした人工的な統計数値はあまり気にかけないようにしています。そうしたうわべだけの数値は、実際に我々が受ける印象ほどには意味を持っていないことが往々にしてあります。

アップルのイベント(日本時間では深夜になることが多い)が行われた翌日のアップルストアは、新製品を試そうとする多くの客で賑わう

 つまるところは、「顧客」はマーケットシェアの数値を実体化したものではなく、「顧客」という人間なのです。我々にとって重要なのは、そうしたひとりひとりが、我々の製品を気に入ってくれて、購入してくれて、それを心から楽しんでくれることなのです。もし彼らが我々の製品を本当に気に入ってくれれば、自分の家族や友だち、職場の同僚に、我々の商品で得た素晴らしい体験を語って広げてくれるでしょう。そしてその中には、それを聞いて我々の製品を買ってくれる人もいるかもしれません。

 そう考えると、我々にとって重要なのは、抽象的な数値を変えることではなく、顧客そのものを喜ばせて変えていくことなのです。その結果、マーケットシェアがどうなろうと、実はそうした数値による代弁は、実際に市場で起きていることほどは重要ではないのです。市場のこうした人工的かつ抽象的な数値に一喜一憂し過ぎな部分があると思っています。それよりも重要なのは、アップルストアから出てくる人々が、大事なお金を費やしてアップル製品を手に入れたことで「本当によかった」と思ってくれることなのです。

―― これも意味のない“抽象的な数値”に過ぎないかもしれませんが、顧客満足度という点では、アップルは米国でも日本でも非常に高い評価を受けています。もしかしたら市場シェアよりもこちらの数値のほうが、アップルの狙いを反映できているのかもしれませんね。ありがとうございました。

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