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» 2013年01月08日 11時30分 UPDATE

小寺信良「ケータイの力学」:青少年のネット依存を考える(6)

ネット依存の問題を考えるには、その性質を正しく捉えなければならない。「安心ネットづくり促進協議会」が行った研究では、これまでの“思い込み”が覆る結果が出ている。

[小寺信良,ITmedia]

 なんだかネット依存のことを調べ始めたら、長大なシリーズと化してしまい、読者諸氏にはご迷惑をおかけしている。今年からはいよいよ、国内の研究結果に言及していく。

 もはや青少年関係ないというご指摘も頂いているが、全くその通りで、最初は青少年がはまりやすいのかなと思って調査に着手したのだが、実際にはかなりの比率で成人が依存傾向を示すことが分かった。そうは言っても、青少年期に起こる引きこもりなどの問題は依然として存在しており、それとネット依存の関係も明らかにして行く必要があるだろう。

 日本におけるネット依存の研究については、安心ネットづくり促進協議会内で行なわれた、東京大学大学院情報学環の橋元良明教授による講演と資料をベースにご紹介したい。なお同協議会と総務省は、2009年より橋元教授らにネット依存に関する研究を委託しており、昨年末にその中間報告がまとまった。この報告書は、現時点ではまだ一般に公開されていないが、安心ネットづくり促進協議会のほうで公開予定であると聞いている。

 日本のネット依存研究は、それほど重い症状が出現しなかったこともあって、韓国や米国に比べれば本格化しなかったが、初期研究は2001年にスタートしている。そもそもネット依存の研究は、1993年に米国の精神医学者イヴァン・ゴールドバーグが、「インターネット依存障害」(IAD:Internet Addiction Dsorder)という名称で問題提起したが、当時は米国でもネットが普及しておらず、精神医学界からも無視された。こう聞くと悲惨な話のように聞こえるが、当時は半分ジョークのような格好で提唱されたようだ。ネットでは1997年に提唱されたという記述も見られるが、これはあるテレビ番組が談話としてこのように報じたものが一人歩きしたようである。

 橋元教授らの調査では、ネット依存の定義として、ピッツバーグ大学の心理学者キンバリー・ヤング博士が提唱した、強迫性ギャンブル依存症の診断基準をモディファイして、以下8項目中5項目以上が該当するユーザーを依存者と定義した。

  1. もともと予定していたより長時間ネットを利用してしまう
  2. ネットを利用していない時も、ネットのことを考えてしまう
  3. ネットを利用していないと、落ち着かなくなったり、憂うつになったり、落ち込んだり、いらいらしたりする
  4. ネットの利用時間を減らそうとしても、失敗してしまう
  5. ますます長時間ネットを利用していないと満足できなくなっている
  6. 落ち込んだり不安やストレスを感じたとき、逃避や気晴らしにネットを利用している
  7. ネットの利用が原因で、家族や友人との関係が悪化している
  8. ネットを利用している時間や熱中している度合いについて、ごまかしたりウソをついたことがある

 これらの質問のうち、(3)は禁断症状、(4)はコントロール不能、(7)は社会生活・人間関係への悪影響を表わしており、重要視される。以前韓国で作られた依存判定基準であるK尺度をご紹介したが、これとも多くの共通性がみられる。

中学生のネット依存

 橋元教授らが2010年に行なった調査では、中学生、オンラインゲームユーザー、2つのSNSユーザーに対して行なわれている。今回は東京都23区内の公立中学生840人を対象とした、郵送による質問紙調査結果に注目する。

 この調査では、因果関係を分析するために、2回の調査を行ない、交差遅れ効果モデルという手法を用いている。これは2つの変数を時間をおいて測定し、“逆もまた真なり”が成立するかをチェックするものだ。

photo 交差遅れ効果モデル概念図

 交差遅れ効果モデルについての詳しい説明は専門家に譲りたいが、一般にはなんらかの相関関係があった場合、逆もありうると考えがちだ。例えばAだからBである、という相関関係がみられた場合、BなのはAだからだ、と考えてしまう。しかし実際には、Bの結果には複数の要因が関係しているかもしれず、逆が成り立つとは限らない。

 極端な例としては、性的表現のマンガと未成年者への暴行事件との関係がある。例えばある暴行事件の加害者が性的表現のマンガを好んで所有していたという事実があったとすると、多くの人は性的表現のマンガを所有している人は暴行事件を起こす可能性があると考える。しかしそれは、逆が成立するかどうかをチェックしなければ、正確なことは言えないわけである。

 今回の調査では、PCでの利用においては、長時間のネット利用は依存傾向を高めるとともに、依存傾向が高いほどネット利用が長時間化するという、双方向の関係にある事が分かった。一方携帯電話での利用においては、ネット利用時間と依存傾向が長くても依存傾向は高まらず、依存傾向が高くても長時間利用には結びつかないという結果が出た。

photo 中学生のネット利用時間と依存得点の関連

 PCでのネット利用では、ほぼ予想された通りの結果が出ているが、実は中学生の場合、元々依存者率が3.0%〜3.7%程度で、他の調査に比べるとかなり低い。また携帯電話の利用では、依存傾向はないのに利用時間が長時間化しているという点では、大したことしてないのに時間だけかかっている、要するに時間効率が悪いというふうに見受けられる。

 したがって家庭内での携帯利用の指導においては、時間がかかっているから依存傾向にあると短絡的に考えないよう、注意する必要がある。これが今後、スマートフォンが普及するに従ってPCと同じような傾向を示すようになるのか、注意深くみていく必要もあるだろう。

 続いてPCでのネット利用において、5つのサービスに対する依存得点を調査している。これによれば、「SNS・掲示板・ツイッター」のみ、利用頻度が高いほど依存得点が高まる(Aの矢印)ことが分かった。逆方向(Bの矢印)では、オンラインゲーム以外の4つはすべて、依存得点が高いほど利用頻度も高まっている。

photo PCでのWebサービス・コンテンツ利用頻度と依存得点の関連

 生活行動に関しては、依存得点が高いほど睡眠時間が短くなる影響が確認された。また勉強時間に関しては、依存による影響は見られない。

photo 生活時間と依存得点の関連

 すなわち、ネット依存の代償として、睡眠時間を削っているわけである。これは成長期にある中学生にとっては、小さくない悪影響である。

 これ以外にも、興味深い結果がいろいろと出ている。例えば、親の目が届きにくいという事から、自室での利用が依存傾向を高めると考えられてきたが、今回の調査では自室の有無は依存に関係ないということが分かった。

 さらに、友人との関係への満足度が低いほど依存得点が高まるが、逆はない。一方、親との関係においては、依存得点が高いほど親との会話時間が短くなるが、その逆はない。

 子どもとネット依存の因果関係は、これまで思い込みがかなり大きかったと言える。これらの調査結果を正しく受け止め、効果的な指導に生かしたいものである。

小寺信良

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は、ITmedia Mobileでの連載「ケータイの力学」と、「もっとグッドタイムス」掲載のインタビュー記事を再構成して加筆・修正を行ない、注釈・資料を追加した「子供がケータイを持ってはいけないか?」(ポット出版)(amazon.co.jpで購入)。


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