スマートフォン5000万台に耐えうるネットワークを――ドコモが対策を説明

» 2012年01月27日 20時38分 公開
[田中聡,ITmedia]

 NTTドコモが1月27日、2011年8月からたびたび発生したネットワーク障害への対策についての記者会見を開催。同社代表取締役社長の山田隆持氏、代表取締役副社長の辻村清行氏、取締役常務執行役員の加藤薫氏、取締役常務執行役員の岩崎文夫氏が詳細を説明した。山田氏は会見の冒頭で「一連のネットワーク障害が発生し、お客様に多大なご迷惑をおかけしたことを深くお詫び申し上げる」と謝罪した。

photo 謝罪するドコモの山田氏、辻村氏、岩崎氏、加藤氏

通信障害を受けて約500億円を追加投資

 一連の通信障害は、「spモード障害」と「パケット交換機障害」に大別される。前者のspモード障害については、まず2011年8月16日に、spモード経由でのインターネット接続がしにくくなる事象が起きた(影響ユーザー数は約110万人)。続いて12月20日には、spモードメールで他ユーザーのメールアドレスが誤って設定される不具合が発生し、通信の秘密が破られ、個人情報漏えいという事態を招いた(影響ユーザー数は約2万人)。年明けの1月1日にはspモードメールが利用しにくい障害が起きたことに加え、メールが届かなかった旨を伝える不達メッセージが届かない場合もあった(影響ユーザー数は前者が約260万人、後者が約20万人)。いずれの通信障害も、「MAPS(Multi Access Platform System)」と呼ばれるspモードシステム上で起きたもの。8月16日の障害はその中の「ネットワーク認証サーバ」の輻輳、12月20日の障害は「ユーザー管理サーバ」の輻輳、1月1日の障害はメールの送受信を司る「メール情報サーバ」の故障、輻輳によって起きた。

 そして1月25日に発生した、東京都の一部地域でFOMAの音声通話とパケット通信が利用しにくい事象は、パケット交換機障害によるもの。ドコモはスマートフォンの急増に対応するため、1月24日に現行パケット交換機(7台)から新型パケット交換機(3台)に切り替えた。新型では同時接続数を高めた一方で、(端末と通信設備との間でやりとする)制御信号の処理能力を必要以上に下げてしまったため輻輳が生じ、通信しにくい状態となった。「スマートフォンはある意味でPCに近い。PCは有線だが、無線は周波数を有効利用するため、こまめに切り、必要に応じて制御信号を流さないといけない。インターネットのアプリを適用するという意味では相当環境が違う」(辻村氏)

photophoto spモード障害(左)とパケット交換機障害(右)の概要
photo 山田隆持氏

 ドコモは12月20日のspモード障害を受け、山田氏を本部長とする「ネットワーク基盤高度化対策本部」を12月25日に設置した。一連の障害に対する当面の対策費として、2011〜2012年度に40億円を投資する。さらに、スマートフォンが5000万台普及しても十分なネットワーク基盤を構築すべく、MAPSには2011〜2014年度に400億円、パケット交換機には2011〜2014年に1200億円投資する。ドコモは2015年度までに4000万のスマートフォン契約を目標にしているが、「1年後の状況を見て設備を作っている」(山田氏)ので、ネットワーク構築においては1000万ほど余裕を持たせた格好だ。

 なお、パケット交換機の1200億円の投資のうち、約900億円がもともと見込んでいた額で、約300億円が今回の障害を受けた追加分。うち3分の2ほどがXi、残り3分の1ほどが3G回線への投資となる。1月25日の障害はXi端末では起こらなかったが、「3GよりはXi(の交換機)の方が信号の処理能力は大きいと認識している」(山田氏)とのこと。spモード障害については、400億のうち約150億円が新たな投資額。これに先述した当面の対策費40億円とパケット交換機の約300億円をプラスした、計500億円ほどが追加投資となる。投資額がさらに増える可能性については、「今の予測はこれでかなり行けると思う。増えたとしてもあと10〜20%で行けるのでは」と山田氏はみる。

photophoto ネットワーク基盤高度化のための投資額(左)と対策本部の検討内容(右)

spモード障害とパケット交換機障害の対策

 では、具体的にどのような対策を講じるのか。spモードメール障害については、2月20日までに接続シーケンスを変更し、電話番号とIPアドレスのアンマッチ(不符合)が発生しないようにする。パケット交換機から端末へのIPアドレス通知を、spモードシステムでのIPアドレス登録完了後に実施する(完全な同期方式にする)ことで、IPアドレスのアンマッチが発生しなくなるという。あわせて、バーストトラフィック対策も行う。伝送路の故障によってパケット交換機とspモードシステムの接続ルートが切断されると、Android端末は一斉に再接続しようとする。この再接続処理を、通信中の端末のみに行うよう4月下旬までに変更する。通信していない端末については、28分の間にランダムで再接続するようになるほか、「お客様が通信をすると再接続するので、お客様に迷惑はかからない」(山田氏)。1月1日の障害については、信頼性と保守性の高い新規メールサーバに2月20日までに切り替えることで対応する。

 スマートフォン5000万台に耐えうるMAPSのスケーラビリティ(拡張性)向上も目指す。「当初はスマートフォン5000万台という数字は考えていなかった。まず基礎をしっかり作り、通信処理などを再点検する。スケーラビリティを上げ、スマートフォンの台数が増えるに従って設備を増やしていく」と山田氏は説明した。

 パケット交換機障害の対策については、2月中旬までに交換機に信号量を測定する機能を新たに備えるほか、全国約200ユニットの交換機の処理能力を一斉点検する。8月中旬までには制御信号の処理能力を向上させる。交換機は当面は旧型と新型を並列で運用し、十分な設備容量を確保する。2014年度末までには、スマートフォン5000万台に耐えうる交換機を増設する予定だ。

photophoto
photophoto
photophoto spモード障害対策とパケット交換機障害対策の詳細とスケジュール

アプリ開発者やGoogleとも連携して制御信号を抑える

 1月25日の障害は、VoIPアプリなど、制御信号量の多い一部のスマートフォン(Android)向けアプリが主要因とされており、アプリの信号を抑えることも解決策の1つと言える。辻村氏は「アプリプロバイダーに、信号を不用意に流すことを控えてほしいというお願いをしたい。ドコモだけができることではないので、世界の主要なオペレーターと連携し、無線環境に適したアプリを開発するというメッセージを出していきたい」と話した。あわせて、Android OSを提供するGoogleとの連携も進め、「すでにOS開発者とは話を始めている。アプリの制御信号を抑える、複数のアプリでまとめて信号を出すなど、OS側で何ができるかを検討している」(辻村氏)とのこと。なお、VoIPアプリの使用を制限するといった措置は、「お客様のサービスへの要望や、技術の進歩は止められないので、その方向にはならないと考えている」(山田氏)とした。

photo 外部への情報発信も迅速に行う構えだ

 1月25日には8時26分ごろから通信障害が発生したが、ドコモのWebサイトに情報が掲載されたのは11時30分のことで、告知までに3時間ほどかかった。今後も同様の障害が発生した場合、Webサイト、サポート窓口(ドコモショップ、インフォメーションセンター、法人部門など)、関係機関(総務省や報道機関など)に、障害発生から30分ほどで情報を提供するよう努める。

 一連のネットワーク障害と、通信の秘密と個人情報漏えいの責任を明確にすべく、山田氏の月額報酬を20%×3カ月、辻村氏、代表取締役副社長の鈴木正俊氏、代表取締役副社長の松井浩氏、岩崎氏、執行役員の澤田寛氏の月額報酬を10%×3カ月間返上する。

 「早い段階で予知をして全力を上げたいと思う。Plan、Do、Check、Actionを徹底し、技術者の動向を把握する仕組みも作りたい。全力で信頼回復に取り組んでいきたい」と山田氏は力を込めた。

1月25日夜の“不具合”の詳細は調査中

photo 岩崎文夫氏

 1月25日夜に、ドコモが都内で(ユーザーの位置登録を司る)加入者交換機のソフトウェア入れ替え工事を実施した際に、同ソフトウェアに不具合が確認されたことも説明した。岩崎氏によると、事前チェックで20時過ぎにエラーメッセージが出たが、サービスへの影響が考えられたため、プログラムを修正したという。不具合は23時ごろに解消したが、その間に「確率的には少ないが、都内で区切った3エリアの境目を移動した際に、圏外表示になった場合がある」という。影響を受けた詳細な時間や人数、この事象が通信障害に該当するのかは現在も調査中とのこと。「パケット交換機とは別の装置を使っているため、25日午前に発生した通信障害とは無関係。そう多くのお客様にご迷惑をおかけしたとは考えていない」と岩崎氏は説明した。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2025年12月07日 更新
  1. ヨドバシ通販は「高還元率で偽物リスク低い」──コレが“脱Amazon”した人の本音か (2025年12月06日)
  2. 「健康保険証で良いじゃないですか」──政治家ポストにマイナ保険証派が“猛反論”した理由 (2025年12月06日)
  3. NHK受信料の“督促強化”に不満や疑問の声 「訪問時のマナーは担当者に指導」と広報 (2025年12月05日)
  4. ドコモも一本化する認証方式「パスキー」 証券口座乗っ取りで普及加速も、混乱するユーザー体験を統一できるか (2025年12月06日)
  5. 飲食店でのスマホ注文に物議、LINEの連携必須に批判も 「客のリソースにただ乗りしないでほしい」 (2025年12月04日)
  6. 楽天の2年間データ使い放題「バラマキ端末」を入手――楽天モバイル、年内1000万契約達成は確実か (2025年11月30日)
  7. 楽天モバイルが“2025年内1000万契約”に向けて繰り出した方策とは? (2025年12月06日)
  8. 楽天ペイと楽天ポイントのキャンペーンまとめ【12月3日最新版】 1万〜3万ポイント還元のお得な施策あり (2025年12月03日)
  9. ドコモが「dアカウント」のパスワードレス認証を「パスキー」に統一 2026年5月めどに (2025年12月05日)
  10. Amazonでガジェットを注文したら、日本で使えない“技適なし製品”が届いた 泣き寝入りしかない? (2025年07月11日)
最新トピックスPR

過去記事カレンダー