フィル・シラー氏に続いて壇上に登場したのはOS X ソフトウェア担当 バイス・プレジデントのクレイグ・フェデリギ氏である。
フェデリギ氏はOS Xの担当として、昨年の「OS X Lion」の後継となる「OS X Mountain Lion」を披露した。
OS X Mountain Lionは今年2月に筆者が先行リポートを行っているが、従来のOS X Lionに約200の新機能が追加されたものだ。そのコンセプトは最近のAppleが得意とする“モバイルからのフィードバック”であり、先行するiOSの機能を大きくキャッチアップするものになっている。また、フェデリギ氏は「iCloudのユーザー数が1億2500万人に達しており、OS X Mountain LionはこれとOSレベルで統合することで、クラウドを駆使した快適な利用環境を実現した」と語った。
フェデリギ氏は、まずはiCloudを通じてMacとiPhone/iPadを連携させる「Documents in the Cloud」のデモを実施。さらにOS Xの標準ブラウザであるSafariでもiCloud連携を強化し、ブックマークだけでなくタブの表示内容や履歴情報などが、Mac/iPhone/iPadのマルチデバイスで連携する様子を実演して見せた。
一方、UIの面で注目だったのが、「Notification Center」と「Dictation」「Sharing」などの搭載だ。
Notification Center(通知センター)は、OSやアプリなどの通知情報をOS側で整理してスマートに表示してくれる機能。iPhoneをはじめスマートフォンではおなじみのものだが、Mountain Lionではこれを画面上の通知エリアとダブルフリック操作のUIに組み込むことで、Macでも使いやすく実装している。Dictationは音声による文字入力。Siriのようなコンシェルジュ的なものではないが、サーバー解析型になるので認識精度には期待できそうだ。Sharingは、見ているWebサイトのクリップなどをブラウザから直接SNSで共有できる機能である。
これらUI面の進化は、その多くがiPhone/iPadで培ったノウハウをMac向けに最適化して実装したものだ。そのためiOSとの連携性も高く、今まで以上に、“iPhone/iPadユーザーにとって使いやすいパソコンはMac”という形になるだろう。
そして今回、Mountain Lionの新機能として新たに発表されたのが、「Power Nap」である。これはMacのスリープ動作中にも、メールの受信、カレンダーやフォトストリームの更新、ソフトウェアアップデートといった処理を自動で行っておいてくれるというもの。クラウド系のサービスが増えてくるとバックグラウンドでの通信処理が増え、“スリープ復帰後に一斉にさまざまなデータ更新が始まる”ことが負担になっていた。Power Napは、それをスマートに解決してくれるというものである。
総じて言えば、Mountain LionはiPhone/iPadで培った“モバイルITのノウハウ”を活用した新世代のOSであり、ポストPC時代により多くの人にとって身近で使いやすいPCの在り方を実現するものになっている。しかも価格は19.99ドル(日本では1700円)と破格だ。Mountain Lionは、すべてのMacユーザーとこれからのMacユーザーにとって、最適かつ必須のものになりそうだ。
そして、iOSである。
iOSソフトウェア担当バイス・プレジデントのスコット・フォーストール氏は、登壇するとまず、iOS端末の販売台数が3億6500万台に達したことを報告。さらにそのうちの8割近くが最新のiOS 5を利用しており、それが「(最新版の)Android 4.0をインストールしている端末はごくわずか」(フォーストール氏)なAndroidプラットフォームに対する強みであるとした。Androidはメーカー/端末ごとに仕様がバラバラであるだけでなく、OSバージョンの点でも深刻な分断(フラグメンテーション)状態となっているのである。
フォールストール氏は、iOS 5によって実装された各種サービスの利用状況も好調だと語る。
例えば、OS Xに先行して実装されたNotification Center(通知センター)機能は、ソーシャルアプリのトップ100のうち84タイトルが対応しており、現在1日あたりの通知数は7億程度あるという。延べの通知数は1兆5000億回にも達する。
「iMessage」も好調だ。iMessageのユーザー数は1億4000万人。これまでやりとりされたメッセージ量は1500億通であり、1日あたり10億通のメッセージが利用されている。携帯電話で一般的なSMSや旧来の電子メールほどではないが、よりリッチで新たなメッセージサービスとして着実な成長をしている。
また、iOS 5からTwitter機能が内包されたことで、Twitterの利用量も増えた。約100億ツイートがiOS 5から発せられたものであり、Twitter上での写真投稿の約47%がiOS 5によるものだという。
このような実績を踏まえて、新たにAppleが投入するのが「iOS 6」である。これはiOS 5から新たに200あまりの新機能が加えられ、ライバルとの差を大きく引き離す内容となる。Appleの戦略にとって最重要のOSであり、我々ユーザーにとってもユーザー体験が大きく変わる可能性を秘めたものだ。
具体的にその内容を見てみよう。
iOS 6の進化において、まず注目なのが「Siri」の高度化である。
周知のとおりSiriはコンシェルジュ型の音声UIとして開発されており、”自然言語で会話するように利用できる”ことが特長だった。iOS 6ではこのSiriがさらに強化され、最新のスポーツスコアの検索からレストランの予約まで、今まで以上にコンシェルジュ的な機能・サービスが内包されることになった。また、iOS 6ではiPhone 4Sに加えて新しいiPadでもSiriが利用可能になる。
基調講演ではこの新たなSiriについて長めのデモンストレーションが行われ、さまざまな情報やサービスが“普通の会話”で利用できるメリットをアピールした。
他方で、日本人として気になるのはそれらが「どれだけ日本で使えるか」だろう。周知のとおり、日本におけるSiriは、日本のローカル情報やコンテンツの実装量が不足しており、ちょっと複雑なことを調べようとするとお手上げだった。フォールストール氏によると、iOS 6のSiriでは英語やフランス語に加えて、日本語など15カ国の言語環境でも利用が最適化されるという。この“最適化”において、日本のローカル情報がどれだけ充実するかは、実際のサービスを試して確かめたいところである。
そして、もう1つ。Siriで大きな進化がある。それが「Eyes Free」だ。
現在のSiriは高度な音声認識機能と会話型UIを実現しているが、補完的に画面操作が必要な場面があった。Eyes Freeのモードではそれがなくなり、完全に“音声だけで操作できる”ようになる。さらにAppleはEyes Freeの実装において、BMWやダイムラー、トヨタ、ホンダなど自動車メーカー9社と提携。ハンドルの音声操作ボタンでEyes Freeを呼び出す連携機能を、今後12カ月以内に順次商品化していくという。
蛇足になるが、筆者は「クルマの運転とSiriの相性のよさ」は常々感じており、実は現在のiOS 5でも市販のハンズフリーキットと組み合わせて運転中に使っていた。といっても、Eyes Freeが実装されていない現時点で、画面操作を伴うような操作は安全運転上も利用できず、もっぱら簡単なiMessageの作成・送信やカレンダー、リマインダーの確認といった用途でしか使っていないが、それでもSiriが運転中にとても便利な機能であることを実感している。Siriは周辺ノイズを除去する独自技術を搭載しているため、ロードノイズがある運転中でも、高精度な音声認識・操作ができるのだ。
今回、Eyes Freeで自動車メーカーと提携し、「安全運転を阻害しない形で、Siriがきちんと連携する」ことは、新たな“クルマとスマートフォンの関係を作る”上でも注目と言えるだろう。
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