iOS 6において、重要かつ大きな変化になりそうなのが、地図機能「Maps」である。
新たなMapsでは地図のデータがベクターベースのものに刷新され、拡大縮小などの操作が滑らかになるほか、店舗などの詳細な施設情報も地図内に内包される。フォーストール氏によると、その総数は約1億件になり、これらはSiriとも連携するという。加えて、Mapsでは交通渋滞情報などリアルタイム性の高いコンテンツも入り、その情報量は従来のMapsを大きく上まわる。
地図そのものの表現力も上がる。新たなMapsでは建物が立体的に表示される3D表示に対応するほか、従来の衛星写真に加えて、ヘリで街を周遊するような「Flyover」の表示もできるようになる。キーノートではこのデモンストレーションも行われたが、高密度にレンダリングされる街の風景はとても美しく、実用性を抜きにしても楽しめそうだ。
そして、もう1つ大きな進化が、カーナビゲーション機能の内蔵だろう。Appleではこれを「Turn-by-Turn Navigation」と名付けているが、実際の画面を見れば分かるとおり、その画面には進行方向だけでなく道路地図も描かれており、実用上は“普通のカーナビ”と大差ない。Turn-by-Turn Navigationの動作中はスリープ状態になって画面が消えることもない。
Turn-by-Turn Navigationもデモンストレーションが行われたが、その動きはとてもスムーズであり、Retinaディスプレイを搭載したiPhoneでは地図画面や進行方向表示もとても見やすい。また当然ながら操作はSiriに対応しており、高精度な音声認識・操作が可能。カーナビで使用する施設情報などの各種コンテンツは、クラウドサービスを通じて常に最新のものが利用できる。
MapsのTurn-by-Turn Navigationが、日本でどの程度の精度・情報量になるかは分からないだが、今回WWDC 2012で公開された北米版を見る限り、その“カーナビとしての機能”は凡庸な専用カーナビなら蹴散らしてしまうものになりそうだ。とりわけUIやナビ画面のなめらかな動き、クラウド連携を背景にした情報量の多さとSiriの高精度音声認識には大きなインパクトがある。少なくとも今後のカーナビ市場では、“通信機能を内蔵してクラウド連携をしていないカーナビ専用機”は確実に淘汰されていくだろう。
WWDC 2012の基調講演は2時間を超える長丁場でありながら、聴く側にとっては「テンポが速い」と感じるものだった。それほどまでに情報量が多く、それでいて、1つ1つの要素すべてが重要かつ革新的なのだ。そして、新型のMacBook Pro、OS X Mountain Lion、iOS 6のすべてが、新たな道を切り拓くものになっている。
今回はティム・クック氏の新体制になって初めてのWWDCであったが、そこで示されたのは「新しい基準を作るのは、やはりAppleである」ということだった。とりわけその牽引力の強さは、iOS 6の姿に多く垣間見られた。まさに今日、Appleは次のスタンダードを作ったのである。
これから秋に向かい、Appleの新たな製品とOSが出そろってくる。そして、それはユーザーにとっても実り多きものになりそうだ。
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