2日以上持つウェアラブル端末も準備しています――ビッグローブのMVNO戦略を聞くMVNOに聞く

» 2015年02月23日 07時00分 公開
[石野純也ITmedia]

 ビッグローブは、今のように「格安スマホ」や「格安SIM」が大きな話題になっていないなか、他社に先んじてMVNO市場を開拓してきた1社だ。2012年にはドコモの3G回線を借りてMVNOに参入。午前2時から午後8時までに通信する時間を絞って料金を抑えた、「デイタイムプラン」のような面白いプランもリリースしている。

 MVNOがユーザーから認知されるきっかけを作ったのも、同社だった。2013年12月には月980円(税込、当時消費税5%)で1Gバイトまで高速通信が可能な「エントリープラン」を新設。その後、各社がこの料金に追随したため、1Gバイト=約1000円という価格は、一気にMVNOのスタンダードになった。現在では、2Gバイトで900円台という価格が主流だが、真っ先に値下げに踏み切ったインパクトは大きく、当時大きな話題を呼んだことを覚えている。

 端末と回線のセット販売にも、当初から積極的だった。まだNECグループだったころから独自のタブレットを発売し、ノウハウを蓄積してきた。NECカシオ(現NECモバイルコミュニケーションズ)のMEDIASをSIMロックフリー端末として投入したのも、2012年のことだ。今では当たり前になりつつある取り組みを、3年弱前からやっていたのだ。こうした経験は、現在の「うれスマ」にもつながっている。また、米国で開催されたCESや、日本で開催されたウェアラブルEXPOでは、1.6型という超小型なAndroid端末を公開するなど、独自端末の開拓にも余念がない。

 このような攻めの姿勢が功を奏し、MVNO市場の中ではシェアも堅調に伸びている。MM総研の調査結果によると、2014年9月末時点でのシェアは、6.7%。3月末の5.2%から1.5%シェアを伸ばし、3位の日本通信(6.9%)に肉薄している。そんなビッグローブに、シェアを伸ばしている秘密や今後の展開を聞いた。インタビューに答えてくれたのは、執行役員、コンシューマ事業部 事業部長の海老原三樹氏と、コンシューマ事業部 ダイレクトマーケティング部 マネージャーの土生香奈子氏。

何とかしてMVNOの火をつけたかった

photo ビッグローブの海老原氏

―― シェア4位ですが、3位の日本通信に肉薄しています。伸びている理由を教えてください。

海老原氏 広がりという意味だと2つあります。我々は、基本的にはWebの企業で、実店舗を持っていません。パートナーさんにビッグローブのよさを知っていただき、展開していただけたのが功を奏しました。具体的には、イオンさんや、直近だとMVNEとしてテレコムスクエアさんとも一緒にやらせていただいています。また、量販店もヨドバシカメラさんで、当初から販売していただけました。

 もう1つが、サービスの広がりです。一昨年(2013年)に(ドコモの)MVNOを始めた時には、データ通信だけでした。データ通信需要はものすごく大きくて、ガラケーを持っていつつ、スマホを持ちたいという2台持ち需要を軸にサービスを広げていきました。価格でも、1Gバイトで1000円以下を打ち出したのは、私たちが最初です。

 ビッグローブはもともとコンシューマーに強い会社でしたが、我々が何とかして(MVNOの)火をつけたいという思いがありました。980円で容量を絞る一方で、LTEのフルスピードを出す。マーケティングをすると、MNOさんのように7Gバイトや8Gバイトという容量は使わないという結果が出ていましたから、容量を下げて価格も下げました。これでビッグローブがモバイルをやっていることを分かってもらえ始め、新しいお客様が入ってこられました。

 また、分かりやすいところでいうと、スマホとのセット販売にも、2012年から「ほぼスマ」という形で取り組んでいます。

端末とのセット販売にこだわってきた理由

―― 端末も試行錯誤されてますね。

海老原氏 7インチの(オリジナル)Androidタブレットを出したのも、ビッグローブが早かったですね。社員には、新しいことをどんどんやっていこうというDNAがあります。それをお客様にどれだけご理解いただけるかというのはありましたが、今では7インチや8インチのタブレットも普通になっています。

photo ビッグローブがこれまでSIMカードと一緒に販売してきたスマートフォンやタブレット

―― なぜ、早い時期から端末とのセット販売にこだわっていたのでしょう。

海老原氏 理由は明確で、SIMやMVNOという言葉をお客様が分からないからです。大手キャリア(MNO)と違い、端末と通信料金は明確に分けていますが、「SIM」と言っても伝わらないですよね? これが通信の要といっても、なかなか理解してもらえませんでした。そこで、NECカシオとしてドコモさんやソフトバンクに納めていた部隊に、「ぜひSIMフリーをやらせてほしい」と言いに行きました。

 端末とSIMのセットは初めての取り組みでしたが、結果として、どちらかというとアーリーアダプター層が多かったですね。もともと台数限定ということではありましたが、「MEDIAS」は完売。3Gを出し、その後LTE版も発売できました。

 第3弾を出そうという時にNECカシオがスマホをやめてしまったので、至急探しに行きました。ただ、この辺から、メーカーさんの方から「SIMフリー端末がありますよ」と言われるようになってきました。その時は、バッテリーが持つ方がやはりいいということで、「AQUOS PHONE」を採用しています。また、AQUOS PHONEには「オートコネクト」というアプリを搭載しています。固定回線を引き、ご自宅はWi-Fiで使ってくださいということは、当初からやってきましたが、Wi-Fiがあればお客様が1Gバイトや2Gバイトのプランでも、節約できるからです。

 そのころから、ちらほらと出てきたのが「通話」というニーズで、ここには昨年(2014年)7月に対応しました。これで、「ほぼスマホ」から「うれスマ」に移行できました。ただ、通話料は30秒20円とやはり高い。そこで、ある会社と交渉して、通話料を半額にするアプリを入れました。キャリアさん(MNO)のように通話定額はできませんが、普通の通話が半額になるというところには、持っていっています。通話はするけど定額まではいらないというところを狙っています。

photo BIGLOBEスマホでは、Wi-Fiスポットが無料で使えることと、通話料が通常の半額になる通話サービスを提供していることを特徴に打ち出している

―― 端末には積極的ですね。オリジナル製品ということで、超小型の端末も披露しましたが、こちらについての狙いなどを教えてください。

海老原氏 1.6インチのディスプレイを搭載したウェアラブル端末を、CESやウェアラブルEXPOに出展しました。参考出展と言いながらも、バッテリーは2日以上持つ仕上がりで、あれをベースにいろいろなことができます。我々はお客様にどういう商品を提供できるのかがキーだと考えています。SIMを使った新しいサービスとして、お客様の使い勝手がいいものにしたいですね。

―― 具体的には、どういった用途を想定しているのでしょうか。

海老原氏 1つが法人のお客様で、首にぶら下げたり、腕につけたりして使います。VoIPも入れているので、ハンズフリーで仕事ができます。もう1つがコンシューマーで、腕につけることで、お子さんでも上手くコミュニケーションできるというようなものです。ウェアラブルというと、必ずスマホを併用しないといけないものばかりですが、こちらは単体で動作します。お子さんが持っていれば通話に使えますし、ほかにもAndroidベースなのでいろいろなことが考えられます。

 また、お子さんではなく、シニアでもいいと思っています。この辺のことは、近々お話したいと思っているところです。

40〜50代は端末とセットで買う人が多い

photo ビッグローブの土生氏

―― 現状だと、端末セットとSIM単体の割合はいかがでしょうか。また、契約者数なども、公開できる範囲で教えてください。

土生氏 (端末セットとSIMの比率は)半々ぐらいで、SIM単体の方が少し多めですね。端末とセットで買われる方は、40代、50代の方が多くなっています。

海老原氏 契約数は公開していませんが、MM総研に出ているのがほぼほぼ当たっていると考えてください。よく調べられているなと思います(笑)。端末については、ここに来て一緒に買いたいという方が増えています。時期的によかったんだと思いますね。

土生氏 端末は自分で調達してもいいのですが、(セット販売なら)SIMも一緒に梱包(こんぽう)されていて、差し込むだけでAPNなどはすべて設定済みです。ご自身でわずらわしい設定をする必要がないので、初心者の方には優しいのだと思います。ただ、ふたを開けてみると、そんなに初心者の方は買っていなくて……。中上級の方で、設定は自分でできるという方が意外と多かったです。

―― 販路の比率はどうですか。

海老原氏 比較的、均等ですね。半分ぐらいがWebで、残りが各チャネルさんです。ビッグローブはホームページを見ていただけることが強みで、分かっている方はその場で注文しています。固定回線は、NTTさんやKDDIさんと一緒になって売ってきましたが、それと比べると、モバイルはWebが多くなっています。こういう風に使える、こういう設定をするというところは、オンラインのコンテンツをもっと充実させないといけないと思っています。

―― 年齢層や性別、地域が広がったというのはありますか。

海老原氏 イオンさんが大きかったですね。リアル店舗に出した時、女性の若い方が意外と多く入ってこられました。この層は、もともとビッグローブが弱いところだったので、名前を覚えていただけたのはよかったと思います。ビッグローブはもともと、40代、50代の男性層は鉄板で、その背後には奥様もいます。個人でモバイルに入るのは、20代、30代、40代の女性です。そうなると、まだ取れていない層がありますが、そこには先ほどお話したウェアラブルを用意しています。

―― NTT東西の光コラボレーションモデルを使った「ビッグローブ光」も始まりました。MVNOと合わせて、固定回線を持つ意義を教えてください。

海老原氏 デバイスを選んでいただくように、回線も自由に選んでいただければと思います。我々はバーチャル・ネットワーク・オペレーターで「VNO」と言っていますが、設備を持たないぶん、逆にさまざまなところと組むことができます。ある意味、いいとこ取りができると考えています。

photo ビッグローブは、それぞれの領域で最適なネット環境を提供する「VNO」と自社を位置づけている

取材を終えて:差別化の鍵を握るのはウェアブルか

 MVNOとして、さまざまな競争を仕掛けてきたビッグローブ。いち早く料金競争を仕掛ける一方で、端末も独自性にこだわっている。その集大成ともいえるのが、インタビューでも言及されていたウェアラブル端末だ。全貌はまだ明らかになっていないが、どのような提案をしてくるのか、今から楽しみだ。

 一方で、料金は他社に追随され、大きな差がなくなっている。今ではビッグローブ以上にインパクトのある料金プランを出す会社も少なくない。ビッグローブ光を見ても、MVNOとの連動があまりなく、インパクトに欠ける印象を受けた。こうした点でどのように他社と差別化していくのか、今後とも注目しておきたい。

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