デル製品のデザイン開発を担っているのは、米国オースティンとシンガポール、そして台湾の3拠点。特にコンセプトなどデザインワークの中心となっているのは本社があるオースティンだが、日本を始め中国やインドなど、デル製品が供給されるそれぞれの市場動向を踏まえて、各国のマーケティング担当者と協議しながらデザインを行っている。
これまで述べてきた通り、デル製品のデザインに対するこだわりは年々強くなってきている。そのため、デザインセクションの強化も着々と行われているそうだ。
添田 デザインに力を入れ始めたのはここ1〜2年のことです。そのため、今でも優秀なデザイナーを続々とリクルートしており、これまで数十人だったデザインチームが百人規模まで膨れ上がってきています。デザイナーはプロダクトデザインばかりでなく、ナイキといった異業種のデザイナーも加わったりしていますから、これから登場するデルの製品に新しく参加したデザイナーの個性が反映されてくるのが楽しみです。
オースティンのデザインチーム主導で形作られるデルのデザインだが、もちろん日本の市場の動向も反映されている。その役割を担っているのが、前述の佐々木氏と添田氏だ。オースティンのデザインチームが作り出すデザインの中から、日本のユーザーの嗜好(しこう)に合わせて日本市場向けの製品を選ぶという作業を行っている。デルのデザインチームには国籍上の日本人デザイナーがいないだけに、日本のニーズを製品に反映させるのは、佐々木氏と添田氏の双肩にかかっているわけだ。
佐々木 2007年から、Inspironで8色のカラーバリエーション展開を始めるなど、製品のデザインにより力を入れるようになりました。デザインは基本的にグローバル規模で共通としていますが、デザインの好みは世界の各地域によって多種多様なので、いかに日本人が好むものを展開していくかがいつも課題となっています。また昨年からは、本国だけですが六十種類以上ものカラーバリエーションを用意した「design studio」も始めました。こういった取り組みを日本で展開できないかと検討しています。
デルのデザインが日本人向けのデザインかというと、まだやるべきことは多いと思います。第1段階として「デルのデザインはこういうものです」ということを知ってもらうのが今のフェーズで、その中からどういったデザインが日本人好みなのかということを考えていくのが次の段階だと考えています。
主にノートPC製品を担当する佐々木氏が語る“日本のユーザーが求めるものとの違い”は、デスクトップPCにもやはりあるとデスクトップPC担当の添田氏が語る。
添田 デルの製品に見られる日本市場の特徴は、オールインワンモデルが人気だということでしょうか。現在は販売終了したXPS Oneのような液晶一体型モデルが、セパレートタイプのモデルと同じくらい売れていました。このような独特の市場性の中で、日本のお客様に求められるデザインやスペックを提供していかなければなりません。そこで、ときにはオースティンのデザインチームを日本に呼び、日本ではこういうものが要求されている、ということを肌で感じてもらう、といったことも行っています。
デスクトップPCでは、サイズというテーマも議論になります。海外の家庭で使うサイズと日本のそれとではやはり大きさが違ってくる。住宅そのもののスケールが違うので、そこに置くPCとしてフィットする大きさ、フィットしない大きさというものがあるわけです。そのため、「このモデルは家庭で使われるから、このサイズに収めてほしい」「このPCはこういう使い方をするから、このくらい大きいものにしてほしい」といったことを、常々ディスカッションしています。
このような中で生まれてきたデルのプロダクトだが、その1つがノートPC「Studio」シリーズに用意されている液晶ディスプレイ天面部のバリエーションだ。2007年に投入したInspironシリーズから8色のカラーバリエーションを開始していたが、その発展形が柄バリエーション(ガラバリ)である。「インモールド成型」という成型技術を利用したもので、天面カバーのパーツを成型時にグラフィックスを印刷したフィルムと同時に射出成型する。Studioシリーズでは著名アーティストとコラボレートした天板をBTOオプションとして用意しており、在米アーティストのマイク・ミン氏による流麗な柄や、売り上げの一部がアフリカのエイズ対策支援に寄付される「PRODUCT(RED)」が用意されている。
佐々木 以前はPCといえば仕事で使うものであり、黒、白、シルバーというイメージが一般的でした。しかし、現在では多くの人が日常の一部として使うものになってきています。そのためPCは家の中に置いてあるインテリアの1つであり、それだけに好みに合ったものを選びたいというユーザーが増えてきています。それに対するデルの答えがこの天面カバーの柄なのです。ちょうどコンシューマー事業部が立ち上がったころにときを同じくして、インモールド成型の技術が確立されたというのもあります。そのため好みの多様化というニーズと技術的なバックグラウンドの両方があって生まれたともいえます。
彼の地では、こうした天面のグラフィックスを60種類以上もの中から自由に選べる「design studio」というサービスも始まっているが、日本のユーザーの目からすると違和感を覚えるようなデザインがやや多い印象がぬぐえない。
佐々木 確かに、あまり奇抜すぎる柄はまだ日本では難しいと思います。逆に中国では派手なものが好まれていて赤い柄のものが人気だと聞いています。こればっかりは十人十色好みが違うので、それに対応できる「design studio」のような仕組みを日本でも作ることが必要だと考えています。
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