この冬商戦ではさまざまなスマートフォンが発売されたが、中でも好調なのが、ドコモから発売された、ソニーモバイルコミュニケーションズ製の「Xperia AX SO-01E」だ。販売ランキングでは発売週に1位を獲得するなど売れている。
Xperia AXは最薄部8.7ミリのボディに4.3インチディスプレイやデュアルコアCPUを備え、おサイフケータイ(FeliCa、NFC)、ワンセグ、LTE、防水などにも対応するなど、現在スマホに必要とされる機能はほぼ網羅している。2012年のドコモ向けXperiaとしては5機種目となるXperia AXは、どのような狙いで開発されたのだろうか。ソニーモバイルの開発陣に話を聞いた。
ソニーモバイルは2012年、ドコモ向けには「Xperia NX SO-02D」「Xperia acro HD SO-03D」「Xperia GX SO-04D」「Xperia SX SO-05D」という4種類のXperiaを投入してきた。その最後を飾るのがXperia AXだ。Xperia AX開発の背景についての話は、2011年3月に発売した「Xperia arc SO-01C」までさかのぼることになる。企画担当の田中氏は「arcは今まで出したモデルの中では薄さを追求した一方で、防水やワンセグなど、フィーチャーフォンから買い替えるお客様には足りない機能がありました。そんな中で、日本人が欲しいと思える機能を入れたモデルとしてXperia acroとXperia acro HDを開発しましたが、サイズの追求が難しかった部分があります。どの商品も、どこか妥協点があり、ユーザーに我慢を強いていました」と話す。そこでAXでは“妥協が1つもない商品”をコンセプトにし、「arcと同じ薄さを実現しながら、日本機能を全部入れることに成功しました」と田中氏は胸を張る。arcと同等の最薄部8.7ミリを実現しながら、acro HDの機能+LTEとNFCにも対応し、サイズと機能を両立させた。
もう1つのテーマが「簡単・快適」だ。「『スマートフォンは何でもできるけど難しいよね』という声も聞かれたので、簡単・快適に使えるには、どんな機能があったらいいのか? という点も開発の背景にあります」と田中氏は話す。具体的には、HDR撮影やシーン別撮影を自動で行うカメラの「プレミアムおまかせオート」や、ワンタッチでWALKMANアプリの音質が向上する「ClearAudio+」などが挙げられる。「お客様にモード選定を強いることなく、1つのボタンで良い音質で音楽を聴いたり、楽しく写真を撮ったりできることも、簡単・快適に含まれます」と田中氏。このほか、後述するタッチパネルの感度向上や、NFCの「ワンタッチ機能」も、簡単・快適を意識したものだ。
Xperia AXは、グローバルモデルの「Xperia V」がベースになっており、Vの開発も、今回話を聞いたメンバーが携わっている。AXではなぜVをベース機に選んだのだろうか。海外では、同時期に「Xperia T」を投入することが決まっていた。Tは4.6インチディスプレイを備えており、フラッグシップ色が強い。「VもTと同時に発売されることが決まっていたので、共存しながら各市場、特に欧州でビジネスを最大化するにはどういうモデルがいいかを考えながら、ディスプレイサイズやスペックを決めていきました。海外のニーズを踏まえながら、日本でも妥協のないところを取りました」と田中氏。
画面サイズを4.3インチとしたことについては、「最初にディスプレイサイズを決めたというよりは、本体のサイズを決めて、そこに入るディスプレイを選びました」と、田中氏は本体サイズを優先したことを明かす。ちなみに、Xperia AXはXperia VにはないワンセグやFeliCaなどを備えているが、AXとVのサイズは「まったく同じ」(田中氏)だという。「日本の機能を入れてもこのサイズ感に収まることが見えてきた段階で、海外でもこのサイズは競争力があると思いました」と田中氏。防水機能をVにも搭載したのは、海外ではまだ少ない防水スマートフォンを投入することで、ソニーモバイルのスマートフォンを特徴付けるため。海外における防水のニーズはまだ日本ほどではないが、「ニーズを喚起する役割を果たしていきたい」と田中氏は意気込む。
Xperia acro HDと同等以上の機能を備えながら、Xperia AXは厚さ約10.8ミリ(最薄部8.7ミリ)と重さ120グラムを実現している。acro HDの厚さは約11.9ミリ、重さは約149グラムなので、AXの方がさらに薄く軽くなっている。またarcから機能アップを果たしながら、最薄部は同じ8.7ミリ、厚さはAXの方が0.1ミリ薄く、重さもarcの118グラムから2グラム増えたのみ。AXの薄くて軽いボディはどのように出来上がったのだろうか。
Xperia AXでは、Xperia arcと同様に、ディスプレイの外装フレームとメタルシャシー(板金)を一体成型する手法を取り入れている(参考記事)。機構設計担当の谷口氏によると、arcではこのシャシーの素材にステンレスを採用していたが、AXではアルミに変更したことで0.1ミリ薄くなり、軽くなったという。このアルミのシャシーは、Xperia GXから採用しているそうだ。
ただしステンレスよりも薄いアルミだと、どうしても強度面で不安が出てくる。Xperia AXでは、シャシーをアルミにして強度が落ちた分、シャシーの周りにある樹脂の強度をアップさせたという。具体的には「樹脂の中に入るガラスの配合率を倍以上に上げている」と谷口氏。「筐体の外枠に対して、板(シャシー)が平べったいと強度が弱くなりますが、そこにできる限り高い(樹脂の)“壁”を作ることで、構造的に高い強度を確保できます」と谷口氏は説明する。強度が強く高い壁を設けると体積が増えてしまうが、「この壁の中に音量調節キーの部品を配置する」(谷口氏)ことでうまくカバーした。この強度の確保は特に苦労したそうだ。
アーク形状ならではの部品配置をしたことも薄さの秘密だ。「Xperia AXには防水構造を入れているので、単純に計算すると、arcよりも片側2ミリほどのサイズアップが見込まれます。そこでAXではアークの形状を生かして、最薄部の中央から厚みが増しているトップ側とボトム側に厚い部品を入れています。トップにはカメラ、ボトム側にイヤフォンジャックやスピーカーを配置しています」と谷口氏は説明する。さらに、AXの基板ではarcよりも多くの電子部品を重ねることで、より効率よく基板上の部品を配置できた。
Xperia acro HDよりも薄く軽くできたのは、基板とバッテリーの構造を変えたことが大きい。Xperia arcでは上に基板、下にバッテリーという形で、基板とバッテリーが重ならないようにレイアウトしており、Xperia AXでもこの構造を復活させている。一方、「acro HDは基板が半分ではなくてフルボードとなっていて、その上にバッテリーを重ねている」(谷口氏)ため、厚くなってしまった。しかしAXの基板はacro HDの約半分の面積に縮小されている。これは「今まで外付けで配置していた部品をICに取り込む」(谷口氏)など、基板全体のプラットフォームが進化したことが大きいという。
また、Xperia acro HDはバッテリーが取り外せない仕様だったため、SIM/microSDスロットが側面にあり、このスロットに必要なキャップを付ける分、サイズが増してしまった。バッテリーを交換できるAXでは、リアカバーの内側にSIM/microSDスロットを設けているので、スロットカバーがない分、さらに体積を減らすことができた。
まとめると、シャシーの素材をアルミに変更、樹脂の強度アップ、アーク形状を生かした部品の配置、基板とバッテリーが重ならない構造、SIM/microSDスロットのキャップ無し――といった「メカの地道な努力」(谷口氏)のお陰で、arcと同等のサイズ/重さ/強度を実現できた。
Xperia GXとの比較では、裏面のカメラの出っ張りがなくなってフラットになっている。これは「GXはディスプレイの裏にカメラを重ねているので、そこの部分が厚くなっていましたが、AXはディスプレイと重ならないようにカメラを配置しているため」(谷口氏)だという。そのためAXのカメラユニットは先端ギリギリの場所に置かれることになった。横向きで撮影するときに左指がレンズにかぶりやすい場合があるが、デザイン性を重視した結果と言える。
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