第1回 加入者数8億5000万、「数」より「質」の向上が進む中国市場山根康宏の中国携帯最新事情

» 2011年05月10日 08時30分 公開
[山根康宏,ITmedia]

 経済の発展が著しい中国では、携帯電話市場も右肩上がりの成長が続いている。2009年の業界再編以降は事業者間での加入者争奪戦が本格化、そして時期を合わせるように3Gサービスの解禁やスマートフォンブームも始まっている。わずかこの数年で中国の携帯電話事情は大きく様変わりしているのだ。

年間の新規加入者数は1億人、「質」の向上も進む

photo 中国の携帯電話加入者は8億5000万。シェア1位のChina Mobile(中国移動)だけで5億8000万を有し、その数は途方もなく多い

 中国ではもはや携帯電話は特別な存在ではない。北京や上海、広州などの大都市ではすでに普及率は100%を超えており、例えば上海のオフィス街へ行けば、「iPhone 4」や「GALAXY S」など最新のスマートフォンを利用している中国人を当たり前のように見かけるほどだ。北京のアップルストアが2010年に開業したときは、あまりの来客の多さに開業翌日から数日間臨時休業したほど。所得の高い層にとって最新端末を持つことはステータスではなく、今では当然のことになっている。地下鉄の中では携帯電話でゲームをしたりチャットをする若者の姿も多く、その姿は他の先進国と変わりはない。

 一方、貧困層が多い農村部では都市部から流れてくる中古端末に変わり、国産の安価な新品端末の販売数が伸びている。そのおかげもあって農村部の毎月の携帯電話加入者数は都市部よりも数を増やしているが、毎月の利用料金は数百円という低ARPU客が圧倒的に多い。だが中国の農村人口は約7億人で、日本の人口の5倍以上だ。コストや利益の変動が1利用者あたりわずか1円であっても、それは7億円の収入増、収入源につながる。日本のような単一市場ではなく、先進国と同じ高い利益単価が見込める大都市部と、新興国と同じ薄利多売でもうける必要がある農村部が混在している、これが中国市場の大きな特徴なのである。

 中国の携帯電話加入者数が1億を超え、米国を抜き世界一になったのはもう10年も前の2001年のこと。その後も毎年の新規加入者数は6000万人前後で推移しており、成長は鈍化することなく続いている。普及率が50%台となった2008年には大都市での普及も一段落し、成長は鈍化すると考えられていたが、2009年には6社あった通信事業者が3社に再編、そして3Gサービスも同年に開始されたことにより、事業者間の競争激化や買い替え需要が高まっている。この2年間は年間の新規加入者数は1億を超え、今後まだ数年は高い成長ペースが続くとみられている。2010年末の携帯電話総加入者数は実に8億5000万に達している。

 最近ではインド市場の成長が著しく、単月の新規加入者数ではインドが中国を抜き去った。だが中国では今、「数」より「質」の向上が進んでいる。3Gの普及率はまだ5%程度であるものの、モバイルTVや中国版おサイフケータイサービスの開始、電子書籍配信や事業者によるアプリケーションストアも始まっている。特に2008年の北京オリンピック、2010年の上海万博といった国家的な大規模イベントが相次いで開催されたことにより、コンテンツやデータ通信利用の普及が大きく後押しされた。中国人の携帯電話の使い方はこの数年で大きく変化しているのだ。

スマートフォンも普及、「山寨機」も氾濫

 この携帯電話の使い方の変化は、中国の消費者が求める端末の嗜好にも変化をもたらしている。特にスマートフォンやフルタッチフィーチャーフォンなど、指先で操作でき、Webサービスやコンテンツを利用しやすい端末の人気が急激に高まっている。数年前までは日本の折りたたみスタイルの端末が高級品というイメージを持たれていたが、今では画面が大きく中国語を指先で手書き入力できるフルタッチタイプの端末にトレンドは完全に移っている。シャープは日本メーカーとして唯一中国で端末を販売しているが、ラインアップの中には日本モデルの中国版だけではなく、中国向けに独自開発したフルタッチスマートフォンも用意しているほどだ。

photo 3Gの開始はスマートフォンの普及も後押ししている

 端末の販売方法は数年前までは「回線契約=SIMカード」であり、端末本体が分離されていることが主流だった。China MobileとChina Unicom(中国聯通)の2社がGSMサービスを主力として提供していたことから、中国の消費者はどちらかのSIMカードと市販のGSM端末を組み合わせて利用していたのだ。だが3Gの開始以降、事業者とメーカーが協力して端末を開発する動きが広がっている。いわば日本式ともいえる開発・販売モデルで、各通信事業者は3G利用者を増やそうと端末価格の引き下げに躍起になっている。

 端末販売時に本体価格を事業者が補助して値引きすることも今では当然のこととなっているが、メーカーとの共同開発、一括購入をすることでさらにコスト引き下げを図っているのだ。さらにはメーカーとの共同開発の流れの中で、事業者の独自開発OSを搭載した製品も出てきている。なお、中国では端末のSIMロック販売は基本的に行われていない。

 このように3Gの開始で事業者とメーカーの協業が増えたこともあり、中国では国産メーカーが少しずつ勢いを復活させつつある。だがその一方で見慣れないメーカーの製品や大手メーカーのデザインやブランドをそのままコピーした端末の数も大きく増えている。中国では端末の製造は自由に行うことができるが、国内販売する際には日本のTELECのようにネットワークへの接続認証を取る必要がある。だがこの認証を取らずに闇で製造・販売される端末の数が急増しているのだ。いわゆる「山寨機」(さんさいき)と呼ばれる製品で、その数は中国国内だけで数千万台とも言われている。

 この山寨機は安かろう、悪かろうの代名詞だったが、品質を上げて海外輸出までするメーカーも出てきており、海外の大手メーカーのエントリーモデルの販売に影響を与えるほど大きな存在にもなっている。

中国が世界をけん引する時代になるか

photo もはや「安物」と言えないほどの存在になりつつある山寨機

 日本では2000年代前半にiモードなどコンテンツサービスが開始され、その後の10年間はそれをベースに付加価値を増やす方向で成長を続けてきた。今や日本の多くのユーザーが3Gサービスを使い、おサイフケータイでの決済を利用している状況からみれば、中国はまだまだ遅れているという印象を受けるだろう。だが中国の現状は、日本の10年前の、携帯電話の使い方やビジネスモデルが大きく変わり始めたときと類似した勢いを感じられる。

 しかも中国には世界市場で互角に戦えるメーカーが数多く登場している。例えばHuaweiとZTEはインフラ、端末で世界のトップクラス入りを果たしている。前述した山寨機もメーカーによっては然るべき認証を取った上で海外向けに販売数を大きく伸ばしている。百度やQQなどのWebサービスも国内だけで数億人の利用者数を誇っており、これらが海外市場に本格参入すれば、その影響力は大きいものになるだろう。

 2011年にはいよいよ国内でLTEの試験サービスも開始される。3Gの開始では他国に大きく遅れを取った中国だが、LTEは国内人口の多さを武器に今後数年で加入者数を大きく増やすとみられている。しかも都市部だけではなく、高速通信インフラが未整備の農村部でもLTEの普及は進むはずだ。そしてLTE需要の高まりにより、国内の端末メーカーやインフラメーカーに世界市場で十分戦える力をつけることになるだろう。中国の携帯電話事情は他国よりまだ遅れた部分も多いが、今後は先進国を追い抜き、技術やサービス面で世界をけん引する存在になる可能性を秘めているのだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2026年02月10日 更新
  1. 「iPhoneの調子が悪いです」の文言、なぜアイホンのFAQに? 実はAppleと深く関係 (2026年02月08日)
  2. 総務省有識者会議が「手のひら返し」な我が国への示唆――日本を国際標準から遅れさせたのは自らの愚策のせい (2026年02月08日)
  3. 「東京アプリ」で1.1万円分をゲット、お得な交換先はどこ? dポイント10%増量+楽天ペイ抽選が狙い目か (2026年02月05日)
  4. KDDI、楽天モバイルとの「ローミング重複エリア」を順次終了 松田社長が言及 (2026年02月06日)
  5. 楽天モバイル、1000万回線突破も残る「通信品質」の課題 5G SAの早期導入とKDDIローミング再延長が焦点に (2026年02月07日)
  6. Googleが台湾のPixel開発拠点を公開 「10 Pro Fold」ヒンジ開発の裏側、“7年サポート”を支える耐久テスト (2026年02月09日)
  7. 東京アプリ、PayPayがポイント交換先に追加される可能性は? 広報に確認した (2026年02月05日)
  8. ソフトバンク、短期解約を繰り返す「ホッピングユーザー」を抑制 その理由は? (2026年02月09日)
  9. 東京アプリ、PayPayとWAON POINTをポイント交換先に追加 交換時期は「決まり次第案内」 (2026年02月09日)
  10. 「小型iPhone SEを復活させて」──手放せない理由SNSで話題 どこが“ちょうどいい”と評価されるのか (2025年11月29日)
最新トピックスPR

過去記事カレンダー

2026年