“活字離れ”と言われて久しいが、ユーザーをより出版の世界に呼び戻すための仕掛けとして、電子出版とiPadはなかなか相性がいいように思う。特にインタラクティブ性を高めれば高めるほど、より面白いものができそうだ。一昔前に流行ったアドベンチャーゲームそのものだといえるが、ツール類が充実してくれば、これを利用してデビューする作家なども登場するかもしれない。
既存の出版社も、こうしたiPadにおける電子書籍とインタラクティブ性の相関関係に気付きつつある。代表的なものがiBookstoreにおける初期の5パートナー企業の1つ、Penguin Booksだ。主に英国をベースとした出版社だが、同社では教育部門、特に幼児など若年層向け電子出版と知育コンテンツの可能性について検討している。
同社が公開したビデオ映像によれば、簡単なパズルゲームや動く書籍などが紹介されており、一種の電子絵本的なものを想定しているようだ。PenguinのJohn Makinson CEOは「表現力を高めるために、アプリを含むあらゆる方向性を模索していく」と説明しており、同氏は同時にEPUBの表現能力の限界についても指摘している(参照:paidContent「First Look: How Penguin Will Reinvent Books With iPad」)。「書籍=EPUB」と単純に考えてしまいがちだが、電子書籍時代にテキスト+画像のみという表現だけでは足りないという認識が広まりつつある。
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Conde Nastが準備を進めている電子書籍化された雑誌のサンプル。単に誌面イメージをデジタル化するだけでなく、3Dオブジェクトの埋め込みやビデオ再生など、さまざまな仕掛けが用意されている。これは誌面では再現できない新しい試みだ。誌面イメージはAdobe CS5上でデジタル化されており、これ自体はアプリケーションとして動作している (高画質版はこちらから) |
EPUB標準を策定する業界団体の国際電子出版フォーラム(IDPF)では4月6日、iPadリリースを受けこうした声が高まっていることに対応し、EPUBを時代に準拠した形で拡張することを表明している。現在利用されているのはEPUB 2.0.1という仕様だが、IDPFが6日に発表したのはEPUB 2.1のDraft 0.8で、主な拡張内容は下記の通りだ。
また重要な仕掛けとして、DAISYなどEPUB以外の電子書籍標準との連携が挙げられる。DAISYでは、いわゆるオーディオブックの標準形式が定められており、絵本などのコンテンツのほか、視覚制限時の音声ガイドなど、さまざまな役割を果たす。DAISY以外にも、こうした電子書籍関連の業界標準は複数存在しており、これら市場にある技術の数々を可能な限り効果的にキャッチアップしていくというのがEPUB 2.1の狙いだ。
前述のMakinson氏のように、すでに旧来のEPUBが古いという認識が出版社の中で広がりつつあるなか、再び業界標準を策定し、「iPadでしか閲覧できない」といったコンテンツが増加することを防ぐ狙いがあるとみられる。結果として、特定プラットフォームにコンテンツが偏ることは、ユーザーにとってあまりメリットがないからだ。
こうした流れをみていると、Kindleの市場が数年内にもiPadに大きく侵食されるという意見が現実味を帯びてくる。実際、表現力が桁違いだからだ。米BusinessWeekでは4月12日、「IPad's Versatility Threatens to Sideline E-Readers(iPadの多様性が電子ブックリーダーを隅に追いやる脅威となる)」という記事で複数のアナリストらの意見として数年内に両社の市場シェアが逆転するとしているが、iPadが多目的に使えるという理由ばかりでなく、電子ブックリーダー本来の役割である電子書籍そのものが多様化する可能性があるのではと思う。
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