世間一般ではお盆休みを挟んでいたこともあり、今回の連載は8月6日から24日にかけての3週間を対象にしている。新製品や新サービスのニュースは通常時よりやや少なめだったが、モバイルは毎日の生活に密着した分野だけにさまざまな動きがあった。今回は、日本テキサス・インスツルメンツの説明会や、LINEの新サービスを取り上げていく。また、8月7日にはドコモがspモードの設定や、国際ローミングで起こった障害の対応を発表。国際ローミングについては、8月13日から8月15日には再度国際ローミングが利用しにくくなる輻輳が発生した。すでに対策済みものもあるが、これら一連の通信障害についても、あらためて取り上げていく。
スマートフォン向けのチップセットを開発する日本テキサス・インスツルメンツ(以下、TI)は、「OMAP」シリーズの特徴や、今後の展開などを解説した。OMAPとは、主にAndroidスマートフォンに採用されるチップの1つ。「パフォーマンスが高い、省電力性も十分、それでいてフレキシビリティが高い」(日本テキサス・インスツルメンツ モバイルソリューションビジネス スマートフォングループ 田渕宏亨氏)ことを特徴としている。日本発売された端末では、サムスン電子の「GALAXY NEXUS SC-04D」や、シャープの「AQUOS PHONE SH-01D」など、多数の機種がこのチップを搭載。Android端末の“お手本”となるリードデバイスのGALAXY NEXUSに採用されたこともあり、ここ1年で一気にメーカーの幅が広がっている。
元々TIはフィーチャーフォン向けのチップセットを開発しており、「『OMAP 2』は、日本が市場として非常に活況を呈した製品」であった。OMAP 2は、902iシリーズを初めとするNTTドコモのiモード端末(FOMA)の多くに採用され、その後継となる「OMAP 3」もNECカシオやパナソニック モバイル、富士通製などの端末が搭載してきた。同社がパフォーマンスだけでなく、省電力性やフレキシビリティを特徴に挙げているのは、こうした経験を踏まえてのことだ。
現行モデルである「OMPA 4」も同様の思想で開発されており、あえてデュアルコアの構成となっている。市場にはクアッドコアのチップを搭載した製品も出回っているが、田渕氏は「クアッドコアの製品があるが、CPUの動作限界より、発熱からの動作限界が先に来てしまう。熱の問題で実用に耐えなくなるため、できるだけクアッドコアを使わない設計をして、やっと商品化している状態」と解説。コアの数による単純な競争がユーザーメリットにつながっていないのが実情だとし、2012年から13年にかけては「価格やダイの面積も考えると、デュアルコアが一番バランスが取れている」(同氏)というTIの見解を披露した。
現行モデルのOMAP4シリーズは、こうした点を考慮してデュアルコアのCPUを搭載している。ラインアップには「OMAP 4430」「OMAP 4460」「OMAP 4470」があり、クロック数はそれぞれ最大1GHz、1.5GHz、1.8GHzとなる。現在は「4430から4460に移行している段階」(同氏)で、4460はコアを最適化して高い周波数で動くようになり、キャッシュメモリとのつなぎを吟味したことで、よりパフォーマンスが向上しているという。4470の本格出荷は2012年の秋を予定。「次の世代に使う予定だった『SGX544』というグラフィックプロセッサーを搭載している」のが特徴で、タブレットなど、スマートフォン以上に処理速度を求めるメーカーが採用を検討しているようだ。
OMAP4は、デュアルコアのCPU(ARM Cortex-A9)のほか、撮影に利用する「Still Image Co-Processor」や、最大3つまでのディスプレイに出力可能な「Display」、ビデオのデコードやカメラ使用時の比較的軽い処理を行う「ARM Cortex-M3」というサブのプロセッサー、グラフィックチップの「PowerVR SGX540」などで構成されている。1枚のチップの上にさまざまな半導体を組み合わせる製品はSoC(システム・オン・チップ)と呼ばれ、これはQualcommのSnapdragonやNVIDIAのTegraも同様だ。また、「SoC(システム・オン・チップ)では、ボトルネックを作らないことも重要」(同氏)とし、例えばOMAP 4470では、データを一時的に蓄積するメモリバスを2チャンネル、466MHzとなっている。結果として、動画撮影時の処理をスムーズにするなどの効果を得られる。
一方で、OMAPには3GやLTEなどのモデムが内蔵されていない。「残念ながらTIは2009年にモデム事業から撤退してしまった」(同氏)ためだ。田渕氏は「アプリケーションプロセッサーとモデムでは世代交代のサイクルが違い、今はLTEというハイスピードなネットワークに移行している最中」として組み合わせの自由を強調したが、トータルでチップの面積が広くなるなどのデメリットはある。ただし、消費電力に関しては「アプリケーションプロセッサー側とモデムで電源管理のやり取りをしていれば、消費電力が変わる可能性はあるが、全体から見れば微々たるもの」(同氏)と述べ、スマートフォンやタブレットではそのほかの部分の影響が大きくなるとの見方を示した。
2013年には、28nmプロセスで開発され、「ARM Cortex-A5」のデュアルコアとなる「OMAP 5」のサンプルが出荷される。最大周波数は2GHzを目指し、グラフィックコアもデュアルで内蔵。2012年2月に開催されたMobile World Congressでは、OMAP 5のデモも行われていたが、同会場では「ARM Cortex-A9」のクアッドコアより高い性能が出せることがアピールされていた。ただ、TIの言うようにデメリットがあるとはいえ、国内外を問わずクアッドコアというカタログスペックに華があるのも事実。日本では「Tegra 3」を搭載した「ARROWS X F-10D」や「ARROWS Z ISW13F」、海外ではSamsung電子の「Exynos Quad」やQualcommの「Snapdragon APQ8064」を採用した製品も発表または発売されており、話題を呼んでいる。OMAP 5が投入される2013年には日本でもクアッドコアのチップを搭載したスマートフォンが多数登場することが予想され、競争がいっそう激化しそうだ。
8月6日から23日は、国内外合わせて約5500万のユーザーを抱えるLINEが、大きく進化した3週間だった。7月にNHN Japanが開催した「Hello, Friends in Tokyo 2012」というイベントでの発表が実現した格好で、タイムラインやホームの実装に加え、LINE占い、LINEコインといった新コンテンツも追加。さらに、Android、iPhone、Windows Phoneに加えBlackBerryにも対応し、マルチプラットフォーム化を推し進めている。あらためてLINEに関する主な発表を時系列にまとめてみると、以下のようになる。
まず、8月6日にはアップデートの目玉である、ホームとタイムラインがAndroid版のLINEでスタートした。ややタイムラグはあるが、13日にはiPhone版でも同様のサービスがスタートしている。一言で説明するとLINEにFacebookやmixiのようなSNSの要素を追加したということだが、元々が「リアルグラフ」を前提にしたサービスだけに、ほかと比べるとややクローズドな色合いが濃くなっているのが特徴だ。例えば、タイムラインは公開範囲を既存の友だちリストからしか選択することができない。多くのSNSでユーザー全体への公開が可能だが、そうしたサービスとは一線を画している印象だ。
タイムラインへの投稿に対してスタンプ風の顔文字を付けられるところにも、LINEらしさが感じられる。Facebookの「いいね!」に近い機能だが、顔の絵柄は6種類から選べる。気軽に使え、感情はある程度正確に反映させることができる。ただし、メッセンジャーサービスというLINEの売りはそのままだ。タイムラインのタブは追加されたが、あくまでメインコンテンツはトーク(文字でのチャット)と無料電話。タイムラインやホームが不要な人でも、従来どおりのLINEとして使える。以前この連載でSNS化に対する懸念を述べていたが、このような形でのアップデートであれば万人に受け入れられそうだ(少なくとも反発されることはなさそうだ)。一方で、NHN Japanによると、SNS機能に戸惑っているユーザーもいるといい、利用促進は今後の課題になっている。
BlackBerry版の投入は、主に東南アジア市場をターゲットにしている。日本では機種も少ないBlackBerryだが、欧米では主にビジネスマンを中心に愛用され、最近では一般コンシューマーにもユーザー層を広げている。AndroidやiOSに押されシェアは減っているものの、特に東南アジア市場では打ちやすいQWERTYキーボードを搭載したメッセンジャー端末として根強い人気を維持している。アジア市場でユーザー数を伸ばしているLINEがBlackBerryに対応したのは、必然的な流れといってよさそうだ。BlackBerryにはBlackBerry Messenger(以下、BBM)というチャットアプリが標準で搭載されているが、機能は非常にシンプル。AndroidやiOSのユーザーとやり取りできない点もBBMのデメリットだ。BBMにはないスタンプ機能も売りになる。実際、NHN JapanによるとLINEのBlackBerry版は「東アジアを中心に、ユーザー数は順調に伸びている」といい、狙いどおりの成果を上げていることがうかがえる。
21日には、Android版先行でLINE占いが始まった。LINE占いは、NHN Japanが「LINE Channel」として打ち出したコンテンツの1つで、合計200種類以上の占いや鑑定を用意している。LINE占いと同時に、同社は各種コンテンツの決済に利用するLINEコインも導入した。有料スタンプ販売はすでに月間2億円を超える収益をあげているが、コンテンツの拡充でLINEのマネタイズが本格化しそうだ。
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