注目集める“第3のOS”/ドコモのマルチキャリア展開とは/ウィルコムがiPhone 4Sを販売する狙い石野純也のMobile Eye(2月19日〜3月8日)(1/3 ページ)

» 2013年03月09日 02時36分 公開
[石野純也,ITmedia]

 2月25日から28日にかけて「Mobile World Congress 2013」がスペイン・バルセロナで開催された。世界最大のモバイル関連展示会だけあって、会期中はもちろん、前後にも関連ニュースが多く、業界の動きがにわかに活発化している。筆者もこのイベントを取材していたため、本来の更新週であった先週は、連載をお休みさせていただいた。もちろん、その間、国内でもさまざまなニュースが報じられている。こうした動向をフォローしつつ、今回は、2月18日から3月8日までの3週間を対象にして、業界の動向を振り返っていきたい。

Mobile World Congress 2013で注目を集めた“第3のOS”

 今年のMobile World Congress(以下、MWC)では、例年と打って変わって端末の発表が“脇役”の印象が強かった。昨年は、Huawei、ソニーモバイル、HTCらが会期前日にプレス向けのイベントを開催。バルセロナ市内の各地で、新しいスマートフォンの発表会があり、華やかなMWCを演出していた。一方で今年は、前日に発表会を開催した端末メーカーはHuaweiのみ。スマートフォン市場の王者・Samsung電子は昨年と同様、Mobile World Congressでの自社イベントを見送り、ブースでプレス向けに14日に米・ニューヨークで開催される「UNPACKED」のインビテーションを配布していた。

 もちろん、HTCは会期前に英・ロンドンと米国・ニューヨークで同時に発表した「HTC One」をブースに展示していたし、Samsung電子もプレスリリースのみを出す形で「GALAXY Note 8.0」を発表したうえで、ブースには端末をズラリと並べていた。ソニーモバイルに関しては、ドコモ向けとして先行発表していた「Xperia Table Z」を、グローバルで初めてお披露目した形となる。とは言え、各社がフラッグシップやラインアップの全体像をアピールしていた昨年に比べ、トーンダウンしていた感があることは否めない。

photophotophoto 「HTC One」(写真=左)や「GALAXY Note 8.0」(写真=中)は、展示があったのみ。HTCは先行して発表会を開催し、Samsung電子はプレスリリースのみの対応だった。ソニーモバイルは「Xperia Tablet Z」の海外版とWi-Fi版を発表した(写真=右)
photo Tizen AssociationもMWCに合わせてイベントを開催。チェアマンの永田氏が、端末の投入を約束した

 これらの端末、さらに言えばAndroidに代わってMWCで話題の中心になっていたのが、“第3のOS”の存在だ。24日(現地時間)には、Mozillaが「Firefox OS」に関する発表会を開催。パートナーとなるキャリアや、端末メーカーが公開された。日本からはKDDIの取締役 執行役員専務の石川雄三氏が招かれ、2014年に端末を投入する計画を明かしている。これに続けてTizen(タイゼン) Associationも26日(現地時間)にイベントを行い、国内ではNTTドコモが、海外では仏・Orangeが搭載端末を導入することを宣言した。Tizen Associationには、Samsung電子に加え、Huaweiや国内メーカーの富士通、パナソニック、NECカシオも参画している。

photophoto Firefox OSに賛同したキャリアとメーカー。日本では、KDDIが端末の開発を検討している
photo KDDI 取締役 執行役員専務の石川雄三氏が会場でFirefox OS開発の狙いを語った

 どちらのOSも、アプリは「HTML5」を基本にしている。開発者の立場からすると、Web用に開発したアプリを若干のカスタマイズで提供できるのがメリットだ。また、両陣営とも「完全なオープン」を強調している。端末の仕様、機能やUI(ユーザーインタフェース)はもちろん、アプリのストア、課金などエコシステムを取り巻く環境も、キャリアやメーカーが自由に構築することができる。

 一方で、2つのプラットフォームの狙いには、やや違いもある。Firefox OSは、スペインや南米に商圏を持つ大手通信事業者Telefonicaが特に力を入れている。同社のブースには、試作機も含めてFirefox OSを採用する端末が勢ぞろいしていたことからも、その意気込みは見て取れる。狙いは、新興国市場や先進国のローエンド市場で、どの端末もQualcommのシングルコアチップを搭載し、ディスプレイも3.5インチ前後であり、昨今のトレンドを踏まえるとスペックは抑えめだ。KDDIは「企画はこれから」(同上)といい、日本市場に合わせたハイエンド端末が登場する可能性もある。ただ、Mozilla関係者によると、現時点ではOSレベルでLTEがサポートされておらず、NFCもこれからという状況だという。

photophoto Firefox OSを搭載した「ZTE Open」。1GHzのシングルコアCPUを搭載し、ディスプレイもハーフVGAとスペックは低い。新興国市場での展開を狙う
photo Firefox OSに力を入れるTelefonicaは、ブースにも多数の端末を展示していた

 かたやTizenは、GALAXYシリーズでプレミアムなスマートフォンを提供するSamsung電子が主導しているだけに、ハイエンド端末も当初から視野に入っている。試作機レベルですでにNFCに対応しており、ドコモが下期に端末を出すということは当然すぐにLTEに対応するだろう。Tizen Associationのチェアマンで、ドコモの取締役 執行役員の永田清人氏は「マーケット次第」としつつ、日本では高機能端末になる可能性を示唆している。また、ドコモと同様、年内に端末を投入するOrangeも、ローエンドからハイエンドまで多様性があることを語っている。スマートフォンがまだこれからの地域での拡大を狙うFirefox OSに対し、Tizenは先進国でのハイエンドモデルから入り、次第にローエンドに広げていくという、従来のOSに近い戦略で普及を進めていくようだ。

photophotophoto Tizenを搭載した開発者向けの試作機。ネットラジオのアプリはHTML5で作成されているが、グラフィックスの凝ったゲームなどは、ネイティブアプリとして開発することも可能だ

 では、なぜ各キャリアやメーカーが、ここまで新たなOSに注力しているのか。グローバルな観点では、各社のAndroidに対するけん制の意識も見え隠れする。GoogleのAndroidも同様にオープンを標榜しているが、実態は必ずしも理想どおりにはなっていない。ハードウェア、ソフトウェアともに規定があり、それが守られないとGoogle謹製のアプリやGoogle Playを利用できないのが現状だ。キャリアやメーカーにとっては、自社の戦略を貫けないのがジレンマとなる。OSのロードマップや、最低要件がリードデバイスの登場まで分からないというのも、キャリアやメーカーの負担につながっており、時おり恨み節も聞こえる。

photophoto Firefox OSのオープン性を語る、MozillaのCEO、ゲイリー・コバクッス氏(写真=左)。Tizen Associationのメンバーも、オープンで多様性の生まれる新OSを歓迎していた。裏を返せば、既存のOSがそうではなかったということだ(写真=右)

 無論、Androidは現在70%に近い世界シェアを獲得しており、ユーザーにも支持されているため、今すぐ手放すわけにはいかない。先の石川氏は、iOSやAndroidを否定する意思があるわけではないことを強調しつつ「ユーザーに新たな選択肢を提供することが目的」と語る。ドコモの永田氏も「Androidは元々もオープンソースで、これは世の中の流れ。スタイルは違うが、(TizenをやることでGoogleから)何かリアクションがあるとは考えていない」という。ただ、スマートフォンは5年先が読めない市場でもある。ここ4〜5年で急速にAndroidが拡大したことを考えると、あっという間に形成が逆転する可能性もゼロではない。そのときに備え、第3のOSに投資しておくのは無駄ではない――国内キャリアはこのように考えているようだ。

 一方で、端末が日本で受け入れられるには、まだまだブラッシュアップが必要だ。MWCに展示されていたZTEやTCLのFirefox OS搭載端末を触った限りでは、正直なところ、あまりAndroidやiPhoneに対する優位性が感じられなかった。アプリのアイコンがホーム画面上に並ぶUIも、従来のスマートフォンに大きく引きずられているように感じた。対するTizenはまだ試作機の段階で「UIも先進的なものに変えていく」(永田氏)というが、現時点での実力は未知数と言わざるをえない。ユーザーは、端末をOSで選ぶわけではない。AndroidやiPhoneと違った魅力をキャリアやメーカーがどのように打ち出していけるのか。これが、“第3のOS”の成否を決めるカギになりそうだ。

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