連載
» 2010年08月17日 13時30分 UPDATE

518日間のはい上がり:なぜ誰も雇ってくれない?

起業した会社を結局倒産させてしまった主人公の金田。残ったのは1500万円の借金だったが、このままではどうしようもない。とにかく中途採用の就職活動を続けるのだった。

[森川滋之,Business Media 誠]

連載「518日間のはい上がり」について

 この物語は、マイルストーンの水野浩志代表取締役の実話を基に再構成したビジネスフィクションです。事実がベースですが、主人公を含むすべての登場人物は作者森川滋之の想像による架空の人物です。

前回までのあらすじ

 会計事務所の事務員として働いていた主人公の金田貴男。会計士ばかりの職場に反発もあって友人とレンタルサーバの会社を起こすが、資金繰りに行き詰まりあえなく倒産。民事裁判沙汰にまで発展した倒産騒動だったが結局1500万円の借金を背負うことになった――。


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 1500万円の勉強代は、ちょっと高すぎたけど、世の中ちょろくないことが分かっただけでも俺は偉いんじゃないかな。

 会社は倒産させずに残しておいたけど、とりあえずは働きに出ることにした。

 求人欄は、どこもかしこも30歳前後ぐらいまで。35歳を過ぎると転職は難しいって聞いてはいたけど、確かにそのようだ。

 でも俺はそんなに悲観していなかった。建前はそうだろうけど、優秀な人材はどこの会社でも欲しいだろうし、何よりITの知識がある。今ならITの知識がある優秀な人材は引っ張りだこだろう。

 目を皿のようにして、技術系転職雑誌の求人欄を見ていたら、俺のこと?って思うようなのがあったので、電話をしてみた。

 「株式会社IT商事です。いつもお世話になっております」若くてはきはきした感じの女性の声が電話の向こうからからする。幸先がいい。

 「あ、金田と申しますが、××に載っていた求人広告を見たんですが」

 「ああ、それでしたら、そちらに書いてあるように、まず封書で応募動機と履歴書と職務経歴書を送って欲しいんですが……」急に声が冷たくなった。

 後で分かったんだけど、小さな会社で、このお姉ちゃんは社長秘書兼営業事務兼人事総務窓口だったんだ。最初に愛想が良かったのはお客かもって思ったんだよね。

 「いや、なんかすぐに優秀な人間が必要みたいだったんで、気を利かして電話にしたんですけど……」

 どうも俺の気配りは、このお姉ちゃんには通じなかったみたい。

 「それはどうも。ですが決まりなんで、郵送してくださいね。では、失礼します」一方的に切られた。

 30分くらいむかっ腹が立ったけど、大人な俺は気を取り直して、書いてある通りの書類を用意して、郵送してやった。

 3日後、例のお姉ちゃんから電話が掛かってきた。社長が明日お会いしたいと言っているとのこと。

 だから言ったろう、社長は優秀な人材をすぐに雇いたいんだって、だから異例のいきなり社長面接なんだろう――と喉元まで出かかったが我慢。もしかしたら同僚になるかもしれないからね。

 翌日、寒風吹きすさぶ中、一張羅のスーツを着て、新宿の近所にあるその会社まで行った。

 ホームページにあった地図を印刷して持って行ったんだけど、なかなか会社が見つからない。約束した時刻の5分前になって、このビルだけは違うだろうとロクに見ていなかった小さなビルに会社があることが分かり、その時点で俺は落胆していた。

 まあ、とにかく遅刻しないように、階段を駆け上ったさ。5階建てなんでエレベーターがないんだよ。しかもよりによって5階にありやがるんだ。分かるでしょう? 小さいビルだから階段が急なの。冬だったから良かったけど、夏だったら絶対に帰ってたと思う。

 フロアは思ったより広くて、ちゃんとぼろいながらも応接室が2つあった。せっかく走ってきたのに、社長が商談中ということで、空いてる方の応接室で15分も待たされた。

 例のお姉ちゃんと思しき人が、いちおうお茶を入れてくれたけど、これが薄くて。たぶん出がらしだったんじゃないかな。もうキレそうだったよ。

 ようやく社長が入ってきた。俺より5つぐらい年上だと思うんだけど、口の利き方が偉そうなんだ。

 「金田さんね。谷口です。よろしく」

 「どうも、金田です。御社のお役に立てるんじゃないかと、やって参りました」。こういう「お役に立ちますよ」という言葉が大事なんだ。初っ端からいいアピールだろ? キレかけていたのに、俺って大したヤツ。

 「あっ、そう。それよりもユニークな職歴だねえ。映画制作会社からソフトハウス。かと思えばコンビニの店長で、つぎが会計事務所なの? で、ホスティングサービスの会社をやってたのね」

 「ええ、まあ」

 「こらえ性がないのかな?」いきなり意地悪な質問だが、これは俺を試そうとしているのだろう。

 「いや。実は次々とヘッドハンティングって言うんですか、知人が今の給料ではもったいないと言ってくれまして」。そんな事実はどこにもなく、ただ単に興味が移っただけ。人生短いんだから、自分に合った仕事を探す権利はあるはずだ。

 「全部3年続いてないんだね。こういうのはふつう職歴とは言わないんだけどなあ……」

 「おっしゃるとおりで」そう言われるのは百も承知。俺は追従笑いを浮かべながら、次の決めゼリフを言ってやった。「なので、御社を骨をうずめるところと考えて、今日は伺いました」

 「ああ、そう。じゃあとりあえず半年間を試用期間ということで、手取り20万円でいい?」

 俺はがっくりきた。なんで36にもなって、そんな安月給なの? 会計事務所から毎月入ってくる13万円を足しても33万円。かみさんがパートで働いてるから生活はなんとかなるけど、借金は利息がやっと返せる程度。

 「ん? 不満なの? うちはどっちでもいいんだけど、あんたはほかで雇ってもらえるか微妙なんじゃないかなあ。それに試用期間の働き次第では、給料はきちっと見直すつもりだけど」

 半年の辛抱だ。俺の能力から言えば、正社員になれば倍にはなるだろう。いや3倍になってもらわないと困るんだけど……。

 「お世話になります」俺は愛想よくそう答えた。満面の笑みのつもりだったけど、ひきつっていたかもしれない。

 「そう。じゃあ、明日から来てね」

 そう言うと社長は、忙しいからと応接から出て行った。

 まあ、面接がこんなんだったからね。まったく合わない会社だったんだ。

 というか社長の器が俺を収めるには小さすぎたんだろう。些細(ささい)なことでいろいろ言われるので、俺もだんだんいやになり、試用期間で辞めることにした。向こうもそれを望んでたみたいだったし。

 辞めると言ったら、かみさんからは一言だけだった。「やっぱり、こらえ性がないのね」

 それから、また就職活動。職歴は半年増えただけ。どうもこれがいけなかったらしい。かみさんと同じように「こらえ性がない」とどの会社も誤解したんだろうな。10社連続で面談さえできないという体たらくになってしまった。

 断られるたびに、酒の量が増えた。

 最初は1日2〜3合程度の酒量だったのが、日本酒では飽き足らなくなり、安いウイスキーに変っていった。それも最初はボトルが空くのに1週間かかっていたのが、いつのまにか一晩でボトル1本になっていた。

 おまけに昼間はやることがない。ちょっとでも稼ごうとパチスロにのめりこんでいった。こればかりは研究熱心な性格が役に立ったのだろう。一生懸命研究すれば、パチスロでも暮らせるんだ。

 パチンコ屋でやることといえば、そうタバコ。タバコの量も増えていき、1日1箱が2箱に、そして3箱になるまであっと言う間だった。

 昼間家にいると借金取りから電話がかかってくる。それが嫌なこともあってはじめたパチンコ屋通いだったんだけど、だんだんと行かないと気持ち悪くなるようになってしまった。完全なギャンブル依存症だ。

 アルコールに関しては、精神的な依存だったんだろう。さすがに昼間から飲むことはなかったけど、夜は飲まないと眠れなくなった。そのうえタバコにも依存。まさに依存の三重苦という状態。

 なのにかみさんは俺をひややかに見るだけで、ほったらかし。死ねばいいと思ってるに違いない。酔って、かみさんに悪態をつくこともしばしばなのに、かみさんは俺をまったく相手にせず。けんかにもならなかった。

 人と会うのは、せいぜい会計事務所のくれた仕事で事務所に行くときだけ。かみさんはもちろん口を利いてくれない。

 俺の話し相手は、パチンコ屋の常連や店員ぐらいしかいなくなってしまった。「何かが間違ってる。何で世間は俺を放っておくんだ!?」答えは誰も教えてくれない。就職面接は会ってももらえない。

 まともな話し相手は自分自身だけ。自分1人で毎晩ボトル1本を空けながら、自分自身と会話するだけ。

 どうしてこんな寂しいことになってしまったんだろう?

 酒とギャンブルとタバコだけが友達――なんだか俺って最低じゃないか。

 でも、この3つの友達なしでは、俺は生きていけないって気がするんだ。どうすればいいんだ?

次回に続く

著者が提唱する「333営業法」とは?

 著者・森川滋之が、あの「吉田和人」のモデルである吉見範一氏と新規開拓営業の決定版と言える営業法を開発しました。3時間で打ち手が分かるYM式クロスSWOT分析と、3週間で手応えがある自分軸マーケティングと、3カ月で成果の出る集客ノウハウをまとめた連続メール講座(無料)をまずお読みください。確信を持って行動し始めたい方のためのセミナーはこちらです。

著者紹介 森川滋之(もりかわ・しげゆき)

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 ITブレークスルー代表取締役。1987年から2004年まで、大手システムインテグレーターにてSE、SEマネージャーを経験。20以上のプロジェクトのプロジェクトリーダー、マネージャーを歴任。最後の1年半は営業企画部でマーケティングや社内SFAの導入を経験。2004年転職し、PMツールの専門会社で営業を経験。2005年独立し、複数のユーザー企業でのITコンサルタントを歴任する。

 奇跡の無名人シリーズ「震えるひざを押さえつけ」「大口兄弟の伝説」の主人公のモデルである吉見範一氏と知り合ってからは、「多くの会社に虐げられている営業マンを救いたい」という彼のミッションに共鳴し、彼のセミナーのプロデュースも手がけるようになる。

 現在は、セミナーと執筆を主な仕事とし、すべてのビジネスパーソンが肩肘張らずに生きていける精神的に幸福な世の中の実現に貢献することを目指している。


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