ぼくらは“未完成”の「iPad」に期待しすぎていたのだろうかAppleイベント現地リポートまとめ(後編)(2/2 ページ)

» 2010年02月01日 17時56分 公開
[鈴木淳也(Junya Suzuki),ITmedia]
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コンテンツ配信もApp Storeで?

New York Times本社ビル。もともと同本社があった場所がタイムズスクエア(Times Square)と呼ばれていたが、現在ではNYT自身が数ブロックほど離れた場所に移転しており、世界一有名な広場にその名称だけを残している

 Appleのこれに対する回答は、App Storeにあると思う。同社は無料/有料を問わずにApp Storeで扱うアプリのアプリ内課金を認める方針を出しているが、これを応用するのがまず1つの方法だ。例えば、日本では産経新聞の朝刊がすべて無料で読めるアプリが有名だが、これを利用すると前述のプッシュ配信や柔軟なアプリ内課金が可能になる。

 スペシャルイベントで公開されたNew York Timesリーダーが好例だろう。Webコンテンツへの従量制課金(一定回数まで無料ページを閲覧できるが、規定回数を超えると支払いなしでページが見られなくなる)を発表した同社だが、NYTリーダーは課金を容易にする仕組みとして活用できる。優秀なリーダーアプリであり、コンテンツの差別化が図られているなら十分にビジネスになるだろう。Wall Street Journalのように、オンライン課金とはまた別に、モバイルアプリユーザー用にさらに課金を行う新聞社もある。

iPadのデモに出てきた問題の画面。New York TimesのWebサイトを巡回するデモなのだが、Flash使用部分だけが表示されずに青いアイコンになってしまっている。この部分だけはさすがに会場から苦笑いが漏れた

 これに関して興味深いと思ったのが、スペシャルイベントで行われたiPadによるWebブラウジングのデモだ。ジョブズ氏がNYTのWebサイトを開いたところ、Flash動画が埋め込まれている部分だけ何も表示されず、「要プラグイン」の青いアイコンだけが表示されていた。その一方で、NYTリーダーの専用アプリを通してみると、おそらくQuicktimeベースの動画プレーヤーが呼び出されるようで、問題なくコンテンツすべてが表示された。iPhone OSでのFlashの動作を認めていないAppleならではの事件といえるが、「複雑でより柔軟なことをしたければアプリを活用してほしい」という同社のメッセージにも見える。

 これはAppleがApp Storeを非常に重視していることを意味している。ゲームやツールはもちろんのこと、MLB.comのアプリのように、本来はWebだけでも大丈夫そうなサービスでさえアプリ化することで、よりApp Storeをアピールしているのではないだろうか。力のある大手はむしろどんどんアプリ作りに参加して、その中でコンテンツを拡充させたほうがメリットがあるかもしれない。

テレビインタビューで正式発表の前日にAppleタブレットの存在を公言したMcGraw-Hillの本社ビル

 iBookstoreと並んでiPadで未知数なのが教育市場への浸透だ。教育出版大手としても知られるMcGraw-Hillは、今回のAppleタブレット騒動で最後のリーク情報を流した企業だ。その同社は当然Appleとパートナー交渉を持っていると思われるが、今回は提携企業に名前が挙がっていないどころか、ジョブズ氏は教育分野でのiPadの取り組みについてほとんど何も語っていない。

 これは教育市場を意識していない、あるいはMcGraw-Hillと交渉が決裂したというよりも、いまだ交渉中で先の展開が見えていない状態の可能性がある。iPadの機能アピールを最小限に抑えることで、製品のアピールポイントが拡散することを防いでいた可能性もあるが、電子ブックと並んでむしろまだ発展途上にあると考えたほうが自然かもしれない。

 今回のイベントで感じたのは、リーク情報で「有力なKindle対抗馬」「電子ブックリーダー期待の新星」「教育市場も制覇」といった話が飛び交い、ユーザーやアナリストらの期待が膨らみすぎてしまったのではないか、ということだ。この前評判がマイナスに作用した可能性がある。“未完の大器”というわけではないが、iBookstoreの推移は今後数年をかけて見守っていくべきなのかもしれない。そのとき、iPadはどのような形で市場に残っているだろうか。

ジョブズ氏が提携先出版社として名称を挙げていたSimon & Schusterのビル(写真=左)。HarperCollins Publishersの米国本社ビル。もともとは英国系の出版社で、ほかの大手出版社もその多くは英国が起源となっている。ちなみに、Time Inc.からここまで挙げたビルはすべて、ロックフェラーセンターを中心にほぼ3ブロック以内にかたまっている(写真=右)

PCとスマートフォンの中間で

 iPadを初めて目にしたとき、実家の両親に触らせたらどうなるかを考えた。2人ともになかなかいい年齢に達しており、本人らも新しいことを覚えるのは苦手だと認めている。当然PCを渡しても最低限の操作しかできず、何かちょっとでもトラブルがあると私がヘルプデスクとして呼び出されることになる。

 もし比較的シンプル化された端末で、直感で操作でき、ある程度以上のことができたらどうだろう。こうした高齢層や教育現場、そしてPCとは縁のやや薄い一般層あたりには需要があるのではないか、などと筆者はいつも考えている。いわゆるPC的な端末の家電バージョンやアプライアンスといったものだ。

 iPadにそんなことを期待してみたが、実際にはiPadはPCコンパニオンの1つという扱いで、基本的に母艦となるデバイス(この場合はMacかWindows PC)が必要だ。データや設定はすべてPC側で保存されており、必要に応じてUSBケーブルで接続してバックアップを取ったり、データを同期したりする必要がある。一方でiPadのサイズではiPhoneにはなり得ないし、iPhone、iPad、Macの3種の神器をそろえて初めてさまざまな生活シーンに対応できるというのがAppleのメッセージだと思う。iPad的なカテゴリの製品が独立したデバイスとして存在するようになるのは、まだ先の話のようだ。

 MacやiPhoneを売るのが前提にあるとはいえ、もう少しデバイス間の依存関係を切り離せないものか。例えば、同期はすべてインターネット経由でも問題ないはずだ。GoogleではAndroid携帯のデータはすべてオンライン側にあり、故障してデータが消失してもいつでも書き戻せるとしているが、アプリなどのデータは引き継がれないため、結局バックアップ用のツールが必要になる。このあたりついてはAppleが買収したLala Mediaの存在をきっかけに、コンテンツがネットワーク側に移動していく世界に期待したい。


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