被災した通信ビルや基地局は9割以上が回復――NTTグループが震災の復旧計画を発表4月末までにほぼ復旧の見通し

» 2011年03月30日 21時30分 公開
[田中聡,ITmedia]

 NTT、NTT東日本、NTTドコモ、NTTコミュニケーションズ、NTT西日本が3月30日、東北関東大震災による被害と復旧計画の見通しを発表。NTT東日本の固定通信と、NTTドコモの移動体通信の状況ついて説明した。

1万人を超える体制で通信設備やサービスの復旧に尽力

photo NTT代表取締役社長 三浦惺氏

 震災でNTTの通信ビル設備やNTTドコモの基地局が被災したことで、約150万回線の固定系サービス、約6700の移動無線局、約1万5000回線の企業向けデータ通信サービスが中断した。NTT代表取締役社長の三浦惺氏は、通信設備の被災状況を「NTTビルの水没・流失・損壊・蓄電池容量の枯渇」「地中のケーブル切断、管路破損」「電柱倒壊とケーブル切断」「携帯電話基地局の倒壊・流失、蓄電池容量の枯渇」の4種類に分けて説明し、これら4つが複合的に発生したケースもあったという。

 NTTグループは震災後に災害対策本部を組織し、全国から1万人を超える体制で通信設備やサービスの復旧に取り組んだ。さらに、約30台の移動基地局車、約870台の衛星携帯電話、約2300台の特設公衆電話、138カ所の無料インターネットコーナーなどを設置するほか、公衆無線LANを無料開放するなど、被災地での通信環境の確保に努めた。固定電話向け「災害用伝言ダイヤル」には約317万件、PC向け「災害用ブロードバンド伝言板」には約24万件、携帯電話向け「災害用伝言板」には約379万件の登録があった。生活支援の一環で、社宅43件(約3000戸)と体育館4件を、政府からの要請にもとづいて被災者の生活スペースに提供した。また、NTTグループとして総額10億円の義援金を寄付した。

 同グループの取り組みにより、被災した通信ビルや移動無線局は9割以上が復旧。3月28日現在、固定系サービスの最大影響回線数は3月13日の約150万回線から約11.2万回線(回復率93%)、携帯電話の最大停波無線局は3月12日の6720局から約690局(回復率90%)に回復している。企業向けデータ通信サービスは約9割が回復しているほか、日本と米国やアジアを結ぶ海底ケーブルは他ルートで迂回する措置を図り、国際通信への影響は発生していない。NTTグループは4月末をめどに、道路、トンネルなどの損壊で物理的に復旧が困難な地域や原発エリアを除き、ほとんどの通信ビルや基地局が復旧する予定としている。

photophoto NTT東日本とNTTドコモの通信設備の被災状況(写真=左)。3月28日時点における通信サービスの復旧状況(写真=右)
photophoto 今後の復旧見通し(写真=左)。通信手段の確保、安否確認、生活支援についての主な取り組み(写真=右)

主な通信設備は4月末までに復旧予定――NTT東日本

photo NTT東日本代表取締役社長 江部努氏

 固定通信の被害状況と復旧計画については、NTT東日本代表取締役社長の江部努氏が説明。震災によって中継伝送路は90ルートが切断され、通信ビルは18ビルが全壊、23ビルが浸水した。東北沿岸部では6.5万本の電柱が流出・破損し、6300キロのケーブルが流出、損傷した。切断した中継伝送路については、迂回ルートを構築することで、主要な中継伝送路は確保できている。通信ビルは3月30日現在で54ビルでサービスを中断しており、NTT東日本はこれらのビルの被災状況に応じてA〜Dのレベルを設定。A〜Cのビルは4月末までにおおむね復旧する見通しだが、福島原発エリアのDに属するビルは、避難指示が解除されてから、状況を見て必要な措置を講じる。

photophotophoto NTT東日本の通信設備の被災状況(写真=左)。迂回ルートを構築することで中継伝送路を確保する(写真=中)。サービスを中断している通信ビルの復旧見通し(写真=右)

「大ゾーン方式」で複数の基地局をカバー――NTTドコモ

photo NTTドコモ代表取締役社長 山田隆持氏

 携帯電話の被害状況と復旧計画については、NTTドコモ代表取締役社長の山田隆持氏が説明した。ドコモは3月22日から、基地局の復旧を本格的に検討し始め、同日時点で788局が設備点検の対象となっていた。応急復旧対策によって、3月28日時点でサービス中断局は岩手県、宮城県、福島県の307局と、福島原発30キロ圏内の68局となった。なお、「無線局」ベースだと3月28日の時点で中断局数は690となっているが、これは1つの基地局に含まれる800MHz帯と2GHz帯の両方を数えているため。これまでは無線局ごとに被災状況を把握していたが、今後は基地局単位で復旧状況を管理していく。

photophoto ドコモの基地局の被災と復旧状況(写真=左)。無線局数と基地局数の違い(写真=右)
photophotophoto ドコモサービス復旧の推移と今後の予定(写真=左)。4月までに回復する見込みの基地局数(写真=中)。5月までに回復する見込みの基地局数(写真=右)

 ドコモは伝送路を復旧させるために、光ファイバーを用いて断線ケーブルを接続しているほか、マイクロ無線や衛星回線を活用している。さらに、津波の被害にあった場所では、山の上にある1つの基地局で複数の基地局をカバーする「大ゾーン方式」を活用することで、効率よく同社のサービスを復旧させることに成功している。大ゾーン方式では電波が相対的に弱くなる傾向があるが、津波の被災地には(他へ避難している人が多いため)ユーザー数が少ないこともあり、「通話やメールを使う分には問題なく、輻輳も起きていない」(山田氏)という。

photophotophoto サービス復旧に向けた対策

 これらの対策により、4月下旬までに248局、5月には59局を復旧させる見通し。福島原発30キロ圏内の68局の復旧時期については未定。復旧のめどが立った地域については、ドコモが公開している「復旧エリアマップ」に4月から随時反映していく。なお、ドコモの復旧計画の対象はFOMAサービスがメインとなる。東北地方には現在3万3000人のムーバユーザーがいるが、「2012年にムーバが停波することもあり、お客さんの意向を聞きながらFOMA端末を配る方法もあるだろう」と山田氏は話す。

photophotophoto 岩手県、宮城県、福島県の復旧エリア

 震災ではドコモショップも大きな被害を受けた。東北地方の195店舗中159店舗が臨時休業となり、3月28日時点で21店舗が休業している。ショップの損壊については、5店が全壊、11店が半壊、73店が一部損壊した。同社は損壊したドコモショップへの支援も行っており、休業店舗のスタッフには見舞金を配っているという。また被災地では「移動ドコモショップも検討している」(山田氏)とのこと。

photophotophoto 4月以降、サービス復旧エリアマップに復旧予定表示が追加される(写真=左)。被災したドコモユーザーに向けた支援策(写真=中)。被災した基地局やドコモショップの様子(写真=右)

スマートフォン向け「エリアメール」は2011年冬モデルから対応

photo ドコモのエリアメールを受信できるのは、現状はスマートフォン以外のケータイのみ

 現在のところは通信設備の復旧が最優先事項といえるが、今後、東北関東大震災と同じかそれに近い規模の地震が発生した場合、“発生当日”の状況も重要だ。山田氏によると、地震が発生した3月11日には通常の50〜60倍のトラフィックがかかり、ドコモは最大90%の通信規制を行ったという。輻輳により電話がつながりにくくなったことは言うまでもないが、今後は災害時に備えてネットワークを増強するなどの施策は検討しているのだろうか。山田氏は「メールは一瞬だけ30%の通信規制をかけたが、すぐに戻した。(3月11日も)メールは問題なく通信できたと思う。今後は(災害時には)メールを使おうと周知していきたい」とした。設備の増強については「回線数は通常の2倍を確保しているが、(輻輳時の)50倍と比べると桁違い」なので、大きくは増強しないようだ。

 11日の地震後も頻繁に余震が発生したことで、震度4以上の強い揺れが予測される地域を知らせる「緊急地震速報」も注目を集めた。ただし、利用者が増えつつあるドコモのスマートフォンの現行モデルは、緊急地震速報(エリアメール)には対応していない(スマートフォン向け災害用伝言板は3月18日から対応している)。スマートフォン向けエリアメールについて、山田氏は「2011年の冬モデルから搭載する予定」であることを明かした。


 今回の震災で前例のない被害を受けた大きな要因は「津波だった」と三浦氏、江部氏、山田氏は声をそろえる。「内陸部の設備は思ったよりも健全な状態だった。(津波により)局舎が全壊したことは今までに経験がなく、被災状況の把握に時間がかかったことも今までと違う」と江部氏は話す。山田氏は「道路の破損に加え、ガソリンと軽油が不足したことで、移動基地局車や衛星電話の運搬が制限されたことも大変だった」と振り返った。

 「今回は津波で街のかなりの部分が被害を受けた。当面の復旧と本格的な復旧は、街の復興計画を見ながら考えていきたい。衛星通信や衛星携帯電話をもう少し活用するなど、今後の課題はこれから詰めていきたい」(三浦氏)

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