人に会わなきゃ518日間のはい上がり(2/2 ページ)

» 2011年09月16日 16時00分 公開
[森川滋之,Business Media 誠]
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 俺は少しぎくっとした。正月に互いの両親と何人かの親戚に会ったのをのぞくと、かみさん以外では、竹下と会うのがはじめてだったんだ。かみさんだって、ロクに口をきいてくれないから、まともに人と話すのは、竹下がはじめてだった。今年も3分の1以上過ぎているというのに……。

 竹下の言いたいことがなんとなく分かってきた。俺は、人を避けているだけ。そう言いたいのだ。

 自分なりに一生懸命、メルマガを発行し、教材を作り、それを売り始めた。全部独学で本を読んだり、ネットで調べたりしただけ。人に直接教えを受けたわけではない。売るのも、ネットだけですべてやろうと考えていた。

 自分ではやれることは全部やっていたつもりになっていたが、人と会う類(たぐい)のことは、すべて避けていたということに気づかされた。無意識のうちに、人と会うのを避けていたのだろう。

 俺は大きく前向きに変わったと思っていたのだが、人を避けていた。それが前向きと言えるだろうか?

 これはある意味トラウマなのかもしれない。

 あれは4歳か5歳のときだった。一人っ子だった俺は、かなりの甘えん坊だったらしい。のちにオフクロから聞かされた。オヤジは、それじゃあダメだと、俺に一人部屋を与えた。それ以来、親に抱かれて寝たことがない。

 親のせいにする気はないが、俺の性格形成に少なからぬ影響は与えているんじゃないだろうか。今もかみさんがいるのに、一人部屋で寝ている。三つ子の魂百までってことわざを思い出して、苦笑いしてしまった。

 気づくと竹下が俺の顔を心配そうにながめていた。

 「おい。どうした? 俺、傷つくようなことを言っちゃったか?」

 「いや。ちょっと昔を思い出してただけ。すごいありがたいことに気がついたよ」

 本当に感謝していた。だって、もう万策尽きたと思っていたのに、意外な方向にまだ道があることが分かったからだ。そう、人に会いにいけばいい。

 友達と言っても、親しくつきあってくれる人は、竹下を含めたほんの数名しかいなかった。新たに友達を作らなければならない。友達だけでなく、師匠なんかも必要かもしれない。

 俺は、とりあえず自己啓発セミナーに行くことにした。ビジネスの成功法やネットビジネスの方法論などを教えてくれるやつだ。人脈を築くために、名刺なんかも作った。「禁煙成功コンサルタント 金田貴男」などと書いた名刺だ。

 名刺交換はできたが、人との新たな交流は生まれなかった。セミナーのあとの懇親会でも勇気を出して話しかけたのだか、話が続かなかった。ただ、なんとなく方向性が見えた。その方向性というのは、自分でセミナーをやってみようというものだった。

 セミナーのコンテンツは、自分でも教材を作ったので「作れるかな」と思った。自分でセミナーをやって受講生を集め、受講生に結果を出してもらう。その声をもらって、教材の宣伝にする。いや、仮に教材が売れなくても、セミナーだけで食べていけるかもしれない。

 我ながら悪くないアイデアだと思った。そう思ったら、とりあえず実際にやってみる。これだけは、できるようになったことだ。

 会場は公民館とかなら安く借りられるようだ。ただ、営利目的だとダメだと書いてある。まあ、会場でこっそり会費をもらうなら大丈夫だろう。いや、そんなことは金が取れるようになってから考えればいい。とりあえず最初は無料でやってみよう。

 俺は、新宿付近の公民館の10名ぐらい入れる会議室を借りることにした。一番近くで空いている土日の昼間の時間帯を聞くと、ちょうど1カ月後だと言う。1カ月で準備できるだろうか? しかし、先延ばしするほど怖じ気づくような気がする。ええい、ままよ。俺は清水の舞台から飛び降りることにした。

 場所が決まれば、メルマガで告知するだけである。なあに、時間だけは腐るほどあるんだ。1カ月もあれば、すごいセミナーにできるさ。早速次のメルマガで、セミナー開催を告知した。無料で10名ならすぐに埋まると思った。しかし、さっぱり申し込みがない。号外も出してみたが、まったく反応がない。

 セミナー開催まであと2週間なのに申し込みはゼロ。久しぶりに泣きそうになった。タダなんだぜ。いったい何なんだよ。俺は、そこまで世の中から見捨てられたのか? でも、ここまできてあきらめられるか。

 俺は携帯を手に取った。もう恥も外聞もない。掛けられるだけの相手に掛けて、なんとか8人来てもらう約束をとりつけた。

 あとはやるしかない。

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著者紹介 森川滋之(もりかわ・しげゆき)

 ITブレークスルー代表取締役。1987年から2004年まで、大手システムインテグレーターにてSE、SEマネージャーを経験。20以上のプロジェクトのプロジェクトリーダー、マネージャーを歴任。最後の1年半は営業企画部でマーケティングや社内SFAの導入を経験。2004年転職し、PMツールの専門会社で営業を経験。2005年独立し、複数のユーザー企業でのITコンサルタントを歴任する。

 奇跡の無名人シリーズ「震えるひざを押さえつけ」「大口兄弟の伝説」の主人公のモデルである吉見範一氏と知り合ってからは、「多くの会社に虐げられている営業マンを救いたい」という彼のミッションに共鳴し、彼のセミナーのプロデュースも手がけるようになる。

 現在は、セミナーと執筆を主な仕事とし、すべてのビジネスパーソンが肩肘張らずに生きていける精神的に幸福な世の中の実現に貢献することを目指している。


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