ローカライズを徹底して満足度を上げる――「GALAXY S」が世界で売れた理由開発陣に聞く「GALAXY S」

» 2010年10月08日 20時33分 公開
[田中聡,ITmedia]
photo Samsung電子の無線事業部 UXデザインパート パート長のリ・ソンシク氏(左)と無線事業部 デザイン戦略パート 首席デザイナーのリ・ミンヒョク氏(右)

 米国では4キャリアが販売、韓国では発売から3カ月弱で110万台以上が販売されるなど、世界で多くのユーザーから支持を集めているSamsung電子のAndroid端末「GALAXY S」が日本でも10月下旬に発売される。これまでSamsung電子が日本市場に供給してきたケータイは、OMNIAやWindows Phone「SC-01B」などが中心で、同社の日本向けAndroid端末は、GALAXY Sが初めての製品となる。それだけに、同モデルが日本でどれだけ受け入れられるのかは気になるところだ。

 GALAXY Sは、どんなこだわりを込めて開発してきたのか。また、何かと比較されることの多い「iPhone」への勝算はあるのか。Samsung電子 無線事業部 デザイン戦略パート 首席デザイナーのリ・ミンヒョク氏と、同社 無線事業部 UXデザインパート パート長のリ・ソンシク氏に話を聞いた。

スマートフォンは汎用性を重視する

photo リ・ソンシク氏

 海外でも発売されているスマートフォンを日本にも投入する場合、日本の文化に合わせてローカライズが施されることが多い。例えばiPhoneは日本語テンキーにフリック入力を、Xperiaは独自の日本語入力システム「POBox Touch」を採用した。

 では日本版GALAXY Sにはどのようなローカライズを施したのだろうか。リ・ソンシク氏は「基本的にグローバル端末をベースにしていますが、アプリや文字入力を(日本向けに)強化した程度」と話す。これは、スマートフォンとフィーチャーフォン(一般のケータイ)の特性が関連している。「フィーチャーフォンはデバイスにこだわる部分が大きいですが、スマートフォンは、どんなアプリを載せても使えるかを考えます。つまりフィーチャーフォンは独自性、スマートフォンは汎用性を重視します」

 Android端末の機能はOSに依存する点が大きいので、手を加える部分はハードウェアや細かいソフトに限られる。「GALAXY Tabはディスプレイが大きいので、サイズに合うよう仕様を調整します。Googleがタブレット端末用のOSを発表したら、そこでまた仕様が変わるでしょう。OSを先に見せてもらえることは難しいので、なるべく早く情報をもらって準備をするようにしています」(リ・ソンシク氏)

 なお、GALAXY Sならではの機能として、QWERTYキーボードをなぞるだけで滑らかに文字を入力できる「Swype」が採用されている。グローバル端末はもちろん、日本版でもSwypeは利用できるが、現在のところ英語のみで日本語には対応していない。今後のアップデートに期待したい。

軽いボディは破損リスクを減らす

photo リ・ミンヒョク氏

 GALAXY Sのデザインについて、リ・ミンヒョク氏は「Samsungがこれまで追求してきた技術と最先端の技術に新しいデザイン言語を組み込みました」と自信を見せる。GALAXY Sを手にしたときに印象に残るのが“軽さ”だ。日本向けGALAXY Sの重さは約118グラムで、iPhone 4(約137グラム)やXperia(約139グラム)と比べると、約20グラム軽い。リ・ミンヒョク氏は「軽くするための工夫は一朝一夕ではできませんでした」と話す。こうした目に見えないところにもSamsungの高い技術が凝縮されていることが分かる。また、「落下したときに壊れるリスクが減る」(リ・ミンヒョク氏)ことも軽いボディのメリットだ。

photophoto GALAXY Sでは薄くて軽いボディにこだわった

 GALAXY Sの特長を語る上で外せないのが、優れた色再現性や高コントラストを実現する「スーパー有機EL(Super AMOLED)」ディスプレイだ。タッチセンサーのパネル、ガラスとディスプレイの空気層をなくすことで薄型化に成功し、画面に表示されたコンテンツとディスプレイが一体となっているかのように見える。これは視認性はもちろん、操作性の良さにも貢献する。「ディスプレイとガラスの間隔が広いと、タッチ操作でエラーしやすくなりますが、スーパー有機ELは、ディスプレイとガラスが一体になっているので、エラー率が減っています」(リ・ミンヒョク氏)。

 iPhoneやGALAXY Sをはじめ、ここ最近のスマートフォンは、物理キーを備えないフルタッチ仕様のモデルが多くなっている。韓国ではその傾向が顕著で、フルタッチのフィーチャーフォンも多く存在する。反面、フルタッチ端末はギミックを工夫する余地が少なく、デザインが画一的になりやすい。フルタッチ端末を指して「iPhoneのようだ」という声もよく耳にする。

 リ・ミンヒョク氏も「デザインは非常に難しい」と苦笑する。「テレビはインテリア要素が強くなっていて、最近はフォトフレームに近い感じに変わってきている。ケータイもそのような流れを歩んでいるのでは」とみる。そういう意味では、スーパー有機ELも、同氏が目指しているという“目で見て体験するデザイン”に一役買っているといえる。

韓国の販売記録を塗り替えた理由

 GfK Japanの販売ランキングで「iPhone 4」がトップを独占する状態が続いていることかわも分かるように、日本で今最も売れているケータイはiPhone 4だ。韓国でも9月10日にiPhone 4が発売され、こちらも好調に売れているようだ。目下、iPhone 4はGALAXY Sの最大のライバルといえるが、iPhone 4に勝てる自信はあるのだろうか。リ・ソンシク氏によると、そのカギを握るのはローカライズ(カスタマイズ)だという。

 「GALAXY Sが韓国で発売されてから、販売記録を塗り替えています。その理由は、お客さんのニーズに合ったものを出しているからでしょう。韓国のGALAXY Sのベースはグローバル版と同じですが、中身は調整しています」と同氏が話すとおり、GALAXY Sは販売する国の通信事業者やユーザーの要望に応じて、細かいカスタマイズを施している。

 例えば韓国版では、辞書や電子書籍など、韓国語で好まれるコンテンツを強化している。韓国の携帯端末向けデジタル放送「T-DMB」に対応させたのも特徴の1つだ。日本版がワンセグを搭載していないことを考えると、T-DMBが韓国でいかに普及しているかがうかがえる。

photophotophoto 韓国のGALAXY S(写真=左)。携帯向けデジタル放送のT-DMBを視聴できる(写真=中)。多数のオリジナルアプリをプリセットしている(写真=右)

 韓国版はT-DMB用のアンテナを備えており、ハードウェアも変更されている。「お客さんのニーズに合ったものを出すのはメーカーの基本的なミッションです。加えて、速いスピードで出す必要があります。日本のお客さんのニーズがあると判断すれば、(ハードウェアの仕様変更も)やります」とリ・ソンシク氏は話す。日本向けのGALAXY Sには、日本語入力(iWnn)や「spモード」、電子書籍、「いつもNAVI」など日本仕様のソフトウェアやアプリを採用しているが、今後はハードウェアも改良し、日本のケータイでニーズの高い「おサイフケータイ」や「防水」に対応したモデルの登場にも期待が高まる。

photophoto ドコモが発売する「GALAXY S」(写真=左)。いつもNAVI、マガストア、spモードメール、Layarなど、日本版もオリジナルアプリが豊富だ(写真=右)

GALAXY Sを「愛情を持って使ってほしい」

 リ・ソンシク氏とリ・ミンヒョク氏は、日本のユーザーに向けて以下のメッセージを送った。

 「GALAXY SはオープンOSの特徴が色濃いですが、ユーザーの要望に合ったものを開発できました。また、ユーザーの好みに合わせてカスタマイズできるので、愛情を持って育てていただきたいと思います」(リ・ソンシク)

 「日本製品は個人的にとても好きで、愛情を持って使っています。GALAXY Sも“モノ”として評価いただければと思います。足りない部分があれば謙虚に伺いながら、アップグレードしたものを出していきたいです」(リ・ミンヒョク氏)

 ハードとソフトともに、Samsung電子の持つ“技術の粋”が凝縮されたGALAXY Sは、2人が話す「愛情を持って」使うにふさわしいモデルといえる。日本におけるSamsung電子のブランド力は未知数の部分もあるが、GALAXY Sは日本市場に風穴をあける可能性を秘めている。まずは10月下旬の発売を待ちたい。

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