NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイルの3社が、相次いで冬モデルを発表した、10月8日から19日の2週間。3社とも、冬商戦のテーマを高速通信の「LTE」に据え、対応製品を一気に取りそろえた。一方で、端末そのものは、以前より差別化より難しくなっていることもうかがえる。その中で、各社ともサービスに磨きをかけている印象だ。今回の連載では、ネットワーク、端末、サービスという切り口から、3社の“冬の陣”を分析していきたい。
冬モデルの発表で先陣を切ったのが、ソフトバンクモバイルだ。同社は冬モデル3機種のAndroid端末を、「TD-LTEのチップ、ネットワーク機器と100%完全互換で非常にコストパフォーマンスがいい」(代表取締役社長兼CEO、孫正義氏)という「AXGP」方式に対応させた。AXGPはソフトバンクが3割を出資するWireless City Planningが運用しており、厳密に言うとソフトバンクはMVNOとして、このネットワークを借り受ける形になる。auのWiMAX端末に近い形と考えておけば、理解しやすいだろう。ただし、異なる事業者が提供しているネットワークながら、電話着信時にAXGPから3Gに接続を切り替える「CSフォールバック」は導入済み。AXGPのCSフォールバックは、1月にWireless City Planningが導入を発表しており、スマートフォンの投入が予告されていた。このとき言及されていたのが、ソフトバンクの冬モデルだったというわけだ。
AXGPは2.5GHz帯を利用し、下りの速度は最大110Mbps。スマートフォンは端末側のバッテリーの持ちを考慮して、下り最大76Mbpsに抑えられている。2013年3月までに、全国の人口カバー率92%、政令指定都市限定で人口カバー率99%のエリアを目標にしている。現時点での政令指定都市の人口カバー率は「70%」(同氏)。孫氏が「より都市部で快適につながる」と述べているように、1月の会見ではWireless City PlanningのCTO兼技術統括部長の近義起氏が、高トラフィックな場所に重点的に基地局を配置していく計画を明かしている。
一方で、発売済みの「iPhone 5」は、ドコモやKDDIと同じFDD方式のLTEに対応している。対応周波数帯は2.1GHzで、KDDIのiPhone 5と条件はほぼ同じだ。エリアの広さに関して孫氏は「市町村に直すとKDDIは541なのに対して、我々は約倍の1090」と語り、自信をのぞかせた。既報のように、ソフトバンクはイー・アクセスを傘下に収める予定だが、これが実現しiPhone 5がソフトウェア的に対応すれば、イー・モバイルの1.7GHz(海外では1.8GHzと呼称される)を使用するLTEにも接続できるようになる。孫氏が「合計3万の基地局でLTEのサービスを始める」と胸を張るのは、そのためだ。
マルチバンドのLTEを運用するにあたってのチューニングや、異なる事業者間でのCSフォールバックを導入しなければならないなど、技術的な課題はあるが、ユーザーにとっては導入が待ち遠しいことは間違いない。ただ、エリアでLTEを、速度でAXGPを訴求していた発表の仕方は少々気になった。いずれもソフトバンクグループの強みであることは確かだが、1つの端末で両方の通信方式を利用できるわけではない。Android端末をお披露目する場で、同シリーズが対応していないFDD方式のLTEをあらためて訴求するのは誤解を招く恐れもあるように感じた。2方式の高速通信規格があり選択に迷うところだが、現時点での通信速度はAXGPに軍配が上がる。今後の計画まで視野に入れると、高速通信対応エリアの広さを取るならiPhone、混雑エリアでの通信速度を重視するならAndroidというような視点で端末を選ぶのがいいだろう。
対するドコモは、すでにLTE方式のXiを開始してから約2年が経過しようとしているが、11月から2013年3月にかけ、盛岡市、仙台市、郡山市、新潟市、富山市、金沢市、福井市、松山市、徳島市、高松市、高知市、那覇市の一部エリアで、速度を下り最大100Mbpsに拡大する。これらのエリアでは、1.5GHz帯で15MHz幅を確保できるためだ。冬モデルは全端末がこの1.5GHz帯に対応。「FOMAプラスエリアに近いイメージで、ルーラルエリアに展開する」(ドコモ広報部)という800MHz帯のLTEも、スマートフォン2機種で利用できる。Xiのエリアは、2013年3月の人口カバー率は75%を予定している。代表取締役社長の加藤薫氏も「LTEサービスの先駆者として2年間のノウハウを蓄積してきた」と、今までの実績を強調した。
逆に言うと、ドコモのLTEは、東京などの混雑しがちな地域では従来どおり下り最大75Mbpsまたは37.5Mbpsのままということになる。Xi加入者も約620万人になり、特に駅などの人が密集する場所では速度が出ないケースも増えてきた。加藤氏は「混み合っているところでは、3Gと同じで少しご不便をおかけしていると認識している。ただ、3Gに比べて3倍の効率があり、速さも違うのでスループットは出ている」と述べているが、先行してLTEを導入してきた分、他社と比べて速度の面で見劣りしてしまうことは否定できない。2.1GHz帯や800MHz帯を3GからLTEに移行し、都市部で帯域を確保するのは「なかなか難しい」(同氏)。「予定よりXiの契約数は早く増やしているので、今後はXiに注力していけると思う」(同氏)というが、その時期はまだ決まっていない。LTEの利用者が増えれば混雑地域での運用はさらに厳しくなるが、逆に3Gの帯域に余裕が出てLTEに振り分けやすくなる――まさに鶏が先か卵が先かといったジレンマを抱えている状況に置かれていると言えそうだ。
こうした状況の中、KDDIは800MHz帯と1.5GHz帯のLTEを「垂直立ち上げでいく」(代表取締役社長、田中孝司氏)。これらの周波数帯には11月2日から販売されるAndroidスマートフォンが対応する。2012年3月末までにコミットされた実人口カバー率は、iPhone 5向けに提供されている2.1GHz帯のエリアも合わせて96%。サービス開始前の10月末でも、84%の実人口カバー率を達成できる見込みだ。また、iPhone 5導入時に訴求していた「高速CSフォールバック」や、LTEと3Gのスピーディな切り替え、ネットワークと端末の協調による端末駆動時間の向上といった特徴は、Androidでも享受できる。KDDIは、このタイミングでLTEを一気に普及させるべく、水面下で準備を進めてきた。
「ドコモより(スマートフォンは)約1年遅れでLTEをスタートさせる。なぜ1年も遅らせたのか。7月に周波数の再編が終わり、そのあと急きょ調整して立ち上げた。簡単にできたように思われるかもしれないが、前々から準備をし、たくさんの基地局を日本中に建設し、最後に電気を入れて電波を発射する」(同氏)
エリアの穴は、「ピコセル」と呼ばれる小型基地局で埋めていく構えだ。「基地局と基地局の間に、電波の弱いところが出てくる」(同氏)ためだ。カバー率には現れない、使い勝手もこうした技術を導入することで高めていくというのがKDDIの方針と言えるだろう。
一方で、KDDIの公表する実人口カバー率は、他社の人口カバー率とは算出方法が異なる。ドコモの加藤氏が「苦慮するところはあるが、実人口カバー率は基準が違う。私どもはずっと使っていて継続性のある人口カバー率を使っている。実人口カバー率を使ってみようとやってみたら、もう少し大きな他社とそん色ない数値になる」と述べているように、従来と基準が異なるため、横並びで比較することができない。また、2.1GHz帯と、800MHz帯および1.5GHz帯は対応端末が異なるため、エリアも変わってくる。端末の対応周波数によってエリアが異なるという、一般のユーザーには理解しにくい概念も加わるだけに、それぞれのブランドを明確に分けるなり、両方の詳細なエリアマップを公開するなりの配慮はほしかった。ただ、800MHz帯の10MHz幅(×2)をフル活用したLTEサービスは、エリア、速度ともに非常に魅力がある。対応Android端末8機種を11月2日に一斉発売するのも、このネットワークに対する自信の表れと見てよさそうだ。
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