品質向上に期待の富士通スマホ/通信の負荷軽減も目指す「LINE」/音楽との出会いを増やす「Music Unlimited」石野純也のMobile Eye(6月25日〜7月6日)(1/2 ページ)

» 2012年07月06日 21時30分 公開
[石野純也,ITmedia]

 夏商戦が徐々に本格化し、端末の予約開始や発売のニュースが相次いでいる。6月25日から7月6日にかけては、富士通がNTTドコモ向け端末の発表会を開催。クアッドコアとXiに両対応し、日本仕様もすべて満たしたスマートフォンの「ARROWS X F-10D」の販売開始を控えていることもあって、高い注目を集めた。一方で、この2週間はNHN Japanの「LINE」やソニーの「Music Unlimited」といった、スマートフォン上でのサービスに関する発表も相次いだ。上位レイヤーの動きが活発になっていることは、スマートフォンの普及が本格化している証拠ともいえるだろう。今回の連載では、富士通のドコモ向け夏モデル、LINE、Music Unlimitedの3つにトピックを絞り、お届けしていきたい。

使い勝手にこだわった富士通の夏モデル、品質向上への取り組みも

 富士通が、6月27日にドコモ向けの夏モデルに関する発表会を開催した。夏商戦に向けたラインアップは「ARROWS X F-10D」「REGZA Phone T-02D」「F-09D ANTEPRIMA」「ARROWS Me F-11D」の4機種。同社は「らくらくスマートフォン」も開発しているが、この機種については、あらためて紹介する機会が設けられるという。

 スマートフォン開発における方針は明確だ。1つ目が「最先端の通信技術、OS、CPUを搭載すること」(執行役員、モバイルフォン事業部長、高田克美氏)。実際、フラッグシップモデルのARROWS Xには、クアッドコアCPUを内蔵したNVIDIAの「Tegra 3」や、自前のLTEベースバンドチップを搭載し、OSは現時点で最新のAndroid 4.0となる。同日グーグルがAndroid 4.1やリードデバイスの「Nexus 7」を発表したが、現在発売されている端末のOSという点では“最新OS”と呼んでも差し支えはないだろう。REGZA Phoneも、Qualcomm製の最新チップセット「Snapdragon S4」にあたる「MSM8960」を採用し、Xiに対応。こちらもOSはAndroid 4.0となる。

photophoto 左端が富士通の高田執行役員で、右端が大谷常務。会見には同社のCMキャラクターを務めるEXILEも駆けつけた(写真=左)。富士通の開発方針。高機能をベースに、その上で使い勝手やデザインを追求する(写真=右)
photophoto フラッグシップモデルの「ARROWS X F-10D」(写真=左)。REGZAとの連携も可能な「REGZA Phone T-02D」(写真=右)

 ただし、スペックだけでは他社との横並びにはなるものの、頭ひとつ抜けることはできない。そこで富士通は、新たに「ヒューマンセントリックエンジン」を開発。「使いやすさ、セキュリティに加え、スマートフォンでは課題になっている省電力技術。こういったものを集めて、1つのLSIにパッケージ化した」(高田氏)というもので、エントリー向けのF-09D ANTEPRIMAやARROWS Meも含め、夏モデルには共通で搭載されている。端末の振動を検知して手に持っている間中、画面を点灯したままにしておく「持っている間ON」や、周囲の光に合わせて画面のホワイトバランスを調整する「インテリカラー」などの新機能は、このLSIによって実現されているというわけだ。デイバスに依存してしまうが、ARROWS XやREGZA Phoneでは、「スイッチ付きの指紋センサーを軽く押すと、まず画面がウェイクアップする。その時点でスッと指紋を検出、認証すれば、画面を触らずに使い始めることができる」(高田氏)という使い勝手も取り入れた。

photophoto ヒューマンセントリックエンジンは、さまざまな機能をパッケージ化したLSI(写真=左)。フィーチャーフォンからの移行を意識した「ARROWS Me F-11D」(写真=右)
photophoto ANTEPRIMAとのコラボモデル「F-09D ANTEPRIMA」(写真=左)。寝ころびながら使っている際に、画面の自動回転を一時的にオフにする機能は、ヒューマンセントリックエンジンで実現(写真=右)
photophoto 端末の揺れを検知して、画面の文字を自動的に大きくできる(写真=左)。ARROWS XとREGZA Phoneは、スイッチ型の指紋センサーを搭載(写真=右)
photo スーパーコンピューター「京」を駆使したエピソードを語る佐相副社長

 こうしたスマートフォンの開発には、富士通が理化学研究所と共同で開発したスーパーコンピューター「京」も活用しているという。代表取締役副社長、佐相秀幸氏は「携帯電話を作るにあたっては、スーパーコンピューターのシミュレーションを駆使している」といい、夏モデルには同社の技術が凝縮されていることをアピールした。富士通は、2011年度の携帯電話シェアで国内トップの座を獲得している。2012年度の目標については「800万台を目指すところは変わっていない」(執行役員常務、大谷信雄氏)とし、シェア1位も継続していく構えだ。夏モデルはらくらくスマートフォンも含め、すべてAndroidを搭載しているが、「富士通としてはWindows Phoneもしっかりやっていく」(大谷氏)といい、PCやタブレットと同じチームで開発を続けていく方針を明かした。

 夏商戦では、Qualcommの製造するSnapdragon S4が全世界的に不足しており、一部メーカーの端末開発に遅れが出ているが、富士通に関しては「特に問題ない」(大谷氏)そうだ。ドコモ向けではMSM8960を採用しているのがREGZA Phoneだけで、フラッグシップのARROWS XにはNVIDIAの「Tegra 3」と、ドコモなどと共同開発した「さくらチップ」が搭載されていることが、功を奏した格好だ。大谷氏は「自社開発をしている強み」といい、今後も日本での製造には注力していく。

 一方で、質疑応答や幹部の囲み取材では、過去に発売してきたスマートフォンの品質面について疑問の声も挙がった。これに対して高田氏は「Web上でご指摘いただいているのに加え、全国にいる営業部隊から、日々お客様の声は頂戴している」として、「ソフトに起因する不具合があったことは事実」と認める。原因は、Androidというプラットフォームや他社製のチップセットに開発部隊が慣れていなかったことに加え、アプリケーションをインストールした際の検証が手薄になっていたためだ。大谷氏は「発売前にドコモさんと評価をして大丈夫と判断しても、実際には使い始めたらすぐにたくさんのアプリをインストールする。その中にはメモリを大量に消費するものや、ネットワークをガチャガチャと触るものがあり、検証が弱かった」(大谷氏)と述べ、今後の改善を約束。反省を踏まえ、夏モデルではドコモも交えた検証のプロセスを大幅に増やしているという。元々、富士通製のスマートフォンは、高いスペックや使い勝手のいい機能が注目を集め、販売も好調なだけに、万が一不具合が出たときの影響も大きくなる。品質向上も広い意味での使い勝手につながることを考えると、今回の成果には期待したいところだ。

ホーム、タイムライン、ゲームなどを取り入れ、プラットフォーム化を目指すLINE

 3日には、NHN Japanが、チャットや無料通話が可能なスマートフォン向けアプリ「LINE」のプラットフォーム化を発表。KDDIとの業務提携を行い、「auスマートパス」にLINEのアプリを提供することも明らかにした。

photophotophoto LINEのイベントにはNHN Japanの森川社長、舛田執行役員、出澤取締役らが登壇

 LINEが登場したのは2011年6月。当初は純粋なメッセンジャーアプリだったが、画像を送受信するスタンプ機能や無料通話が話題を呼び、約1年で急成長をとげた。現在のユーザー数は4500万人。日本は2000万人、海外が2500万人と、海外比率が50%を超えており、展開も積極的だ。日本に加え、香港、シンガポール、韓国、台湾といった東アジアが、LINEの主な市場となる。今では「月間で500万人のユーザーが新たにLINEを使い始めている」(執行役員、CSMO、舛田淳氏)といい、勢いは文字どおり日増しに拡大している。

photophotophoto ユーザーは約1年で4500万を超え、東アジアを中心に海外でも急成長している。日本では、スマートフォンユーザーの44%がLINEを使用している

 こうしたサービスの母集団を生かし、NHN JapanはLINEのプラットフォーム化に踏み切った。チャットと通話が中心だった“実用アプリ”を脱し、SNSではおなじみの「ホーム」や「タイムライン」といった概念をLINEに加えていく。さらに、LINEのソーシャルグラフ(人間同士のつながり)を生かしたゲームも投入。仮想通貨の「コイン」や、位置情報を組み合わせたクーポンの「LINEクーポン」、着信音などを購入、プレゼントできる「LINEサウンド」など、数々のサービスを導入する。この発表があった翌日の4日には、早くも新作ゲームの「LINE Birzzle」をiOSおよびAndroid向けにリリース。APIも公開し、協業先としてgloops、コナミデジタルエンタテインメント、スクウェア・エニックスなどの名前が発表されている。

photophoto SNSのような「ホーム」や「タイムライン」を導入する
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photophoto LINE CHANNELとして、ゲーム、小説、占い、クーポン、着信音などの、各種サービスを開始し、プラットフォーム化を図る

 プラットフォーム化にあたり、NHN Japanは徐々に実験を進めてきた。その1つが、スタンプやフィルターで写真を加工できる「LINE camera」というアプリだ。「LINEと連携するという一点だけで、ノンプロモーションでどこまでユーザーを伸ばせるのか」(舛田氏)という隠れた目的を持って投入された。結果は「10カ国で1位を獲得した」(舛田氏)といい、LINEの底力を確認するきっかになっている。次のトライアルが、スタンプによる収益化だ。NHN Japanは、LINE内で利用できる有料スタンプの販売を4月に開始。売り上げは「2カ月で3億5000万円を達成している」(舛田氏)。ユーザーの規模に加えて、それを他のサービスに波及させ、収益化を行う。この3つを「慎重に検討し、ようやくプラットフォームに進む準備ができた」(舛田氏)という。当面の目標は年内に1億ユーザーを達成することで、同社の代表取締役社長、森川亮氏は「Facebookを超えたい。その先にマネタイズの規模が出てくる」と意気込みを語った。

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photophoto 「LINE camera」や有料スタンプで、プラットフォーム化の条件を満たすかどうかのテストを行っていた
photo KDDIの高橋常務がゲストとして招かれ、提携が発表された。

 一方で、LINEをはじめとするメッセンジャーアプリは、通信に与える負荷も小さくない。例えば、ドコモで1月に発生した通信障害は、アプリがセッションを維持するために送るいわゆる「制御信号」が、想定を超えたことが原因とされている。ドコモがアプリを名指ししたわけではないが、一部ではLINEの影響が取りざたされた。ただ、NHN Japanとしては「そもそも我々のようなアプリ開発事業者には、制御信号でどれだけの負荷が発生しているのかが分からない」(舛田氏)のも事実。キャリアとアプリ開発者の両方が、情報を持たないままの手さぐり状態だったというわけだ。そこでNHN Japanは、先の述べたようにKDDIと提携。auスマートパスにLINEを提供するだけでなく、通信の負荷軽減にも取り組んでいく。

 サービスにSNS的な性格を取り入れるため、規約で禁止されている異性との出会いを目的とした利用への対策は、さらに強化する。App StoreやGoogle Playのレビュー欄を使ったIDの公開には「削除の依頼を、アップル、グーグルにしている」(森川氏)。未成年保護の対策については、「国内通信事業者より年齢確認データをいただき、積極的に対応していく」(森川氏)という。現在、キャリア各社は契約者情報に基づき、特定の年齢より上か下かといったデータをSNS各社に提供している。すでにSNSではMobageやGREE、mixiといった大手が、こうした仕組みを取り入れている。LINEも、この動きにならうというわけだ。KDDIとの提携は、青少年対策でも効果を発揮する。発表会に登壇したKDDI代表取締役執行役員常務の高橋誠氏は、LINEの可能性に言及しながら「一方で未成年やトラフィックの問題がある。我々の所見を生かしながら、素晴らしいプラットフォームを力いっぱい応援していきたい」と語った。

photophotophoto 青少年対策や、スパム対策もプラットフォーム化に伴い強化する
photo リアルを軸としたソーシャルグラフを生かしていくLINE。今後、どのような方向に向かうのかも注視しておきたい

 足回りの通信を担うキャリアと、その上でサービスを展開するアプリ開発者はしばしば対立の構図で語られることがあるが、歩み寄りがなければ両者にとって、そしてユーザーにとってもメリットは少ない。特に負荷軽減や青少年問題への対策では、今回のように手を取り合った方がいいだろう。その意味で、NHN JapanとKDDIの提携は、意義が大きなものになりそうだ。LINEのプラットフォーム化については、賛否が分かれるところかもしれない。短い期間ではあったが実用ツールとして成長してきただけに、この部分(実用性)が損なわれるとユーザーが離れてしまう可能性がある。SNSの要素を取り入れたはいいが、青少年対策などを強化しすぎると、電話やSMSの代替であったLINE本来のよさまで失われかねない。このかじ取りをどのように行っていくのか。プラットフォーム化したLINEの今後にも注目したい。

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