エヌビディア・ジャパンが4月13日、NVIDIA製のプロセッサ「Tegra(テグラ)」に関する説明会を開催。エヌビディア・ジャパン テクニカルマーケティングエンジニアのスティーブン・ザン氏が最新のマルチコアプロセッサ「Tegra 2」の特長や、プロセッサ事業のロードマップを説明した。
Tegraは、スマートフォンやタブレットなどのモバイル機器向けデュアルコアプロセッサ。日本では、NTTドコモの「Optimus Pad L-06C」や、KDDIの「MOTOROLA XOOM Wi-Fi TBi11M」がTegra 2を採用している。Samsung電子がMobile World Congress 2011で発表した「GALAXY Tab 10.1」もTegra 2を搭載しており、Android 3.0搭載タブレットへの採用が目立つ。スマートフォンでは「Optimus 2X」や「Motorola ATRIX」、そのほかではNECの「Life Touch Note」もTegra 2を搭載する。
NVIDIAが「世界初のモバイルスーパーチップ」と銘打つTegra 2は、CPUにデュアルコアARM Cortex-A9(クロック周波数は1コアにつき1GHz)を採用しており、従来の2倍速いマルチタスクやWebブラウジング、FlashやHTML5の素早い表示などが可能になる。GPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)には8コアのULP(ウルトラ・ロー・パワー) GeForceを採用しており、3Dや精細なグラフィックで表現したゲームを体験できる。動画再生は1080p(1920×1080ピクセル)をサポートする。
デュアルコアCPUを採用するメリットは「高速で並列処理できること」。ザン氏は「スマートフォンではマルチタスクを快適にこなせることが最も分かりやすい」と話し、「1本の道を走るのをシングルコアとすると、デュアルコアは複数の道路から成る高速道路を走るようなもの」と例えた。「複数のタスクを高速で切り替えることはPCでは当たり前のことだが、これまでのモバイル端末では、アプリを閉じてから他のアプリを立ち上げるといった操作が多かった」
ブラウジングについては、Webページを素早く表示できるのはもちろん、FlashやHTML5などのリッチコンテンツもPC並みの速さで操作できるという。「Flashは9割以上のWebサイトに採用されている。NVIDIAはPC向けのほかに、モバイル分野でもAdobe Systemsと協業し、FlashをTegra 2向けに最適化しているので、他社と比べて圧倒的なFlashのパフォーマンスを実現できる」とザン氏は自信を見せる。Android 2.2以降のスマートフォンはFlash 10.1に対応しており、PCとほぼ同じコンテンツを閲覧できる。ただ、ザン氏は「(他のFlash対応機が)快適に動くかどうかは疑問を感じていた。“できる”と“快適に使える”は違う」とし、Tegra 2搭載機の方がFlashの表現力に優れていることを強調した。
NVIDIAがもう1つ注力しているのがゲームコンテンツだ。GeForceグラフィックスプロセッサでリッチなゲームを体験できることに加え、ザン氏が「パフォーマンスよりも強調したい」と言うほど注力しているのが「ゲーム開発者との関係」だ。NVIDIAはゲーム開発者と連携し、Tegra 2に最適化したゲームの移植を積極的に働きかけている。「モバイル向けのシンプルなグラフィックスから、PCや家庭用ゲーム機並みに精細なグラフィックスに向上できる」(ザン氏)
デュアルコアCPUを採用することで、目に見えない部分でも高度なゲーム体験を提供できる。「例えばチェスゲームでは、1つのコアでゲームの処理、もう1つのコアで人工知能を動かして難易度を調整できる。モバイル向けだからといってシンプルなゲームとは限らない」とザン氏は説明する。さらに、Tegra 2はCPUの処理性能やGPUの描画性能がPCや家庭用ゲーム機並みに優れているので、モバイル機器へ移植する際に「何か要素を減らすことはない」のも強みだ。
Tegra 2に最適化されたゲームは、NVIDIAが提供しているアプリ「Tegra Zone」から入手できる。ゲームメーカーやTegraのニュースなども配信しており、ゲームとTegraのポータルサイトのような役割も果たす。Tegra ZoneはAndroid マーケットで無料配信されており、Tegra 2非搭載のスマートフォンやタブレットでも入手可能。ただし、Tegra 2対応のゲームが他の端末で問題なく動作するかは保証されない。また、Tegra Zoneは現在は英語のみ対応しているが、今後は日本語対応や、日本製ゲームの取り扱いも予定している。
同じ作業をシングルコアより少ない消費電力で実行できるのもデュアルコアの利点だ。例えば、ブラウジングでJavaScriptやFlashなどを処理する際に、シングルコアがほぼフル回転するところを、デュアルコアなら処理の負荷を2つのコアに分担できるので、クロック周波数を下げて駆動できる。結果として、シングルコアよりも40%ほどの低消費電力を実現するという。
Tegra 2には独立した専用プロセッサが8つあり、各プロセッサを必要に応じて短時間または常時通電させ、最小限の電力で駆動するよう設計されている。これも低消費電力に貢献している。例えば、音楽を再生するときはARM7とオーディオプロセッサが常時駆動するが、動画をストリーミング再生するときはARM Cortex-A9とHDビデオデコーダーが常時、ULP GeForceが必要に応じて駆動する。「Tegra 2では細かく電力を制御しているので、最もいい電力効率で処理できる。デュアルコアだからといって低消費電力を実現できるわけではない。このような省電力技術があることが大きい」とザン氏は胸を張る。
NVIDIAのプロセッサが進化する上で、ザン氏は「デュアルコアが一番大きなコンセプト」と話す。2011年に供給予定の「Tegra 3(開発コードネームは『KAL-EL』)」は4つのコアを持ち、Tegra 2の5倍の性能を有するほか、「Core 2 Duo」よりも性能が高いとしている。「今年はタブレットやスマートフォンに、Core 2 Duo以上の性能をもたらす」とザン氏は意気込む。さらに、2014年の供給を予定してる「STARK」(開発コードネーム)は、Tegra 2の75倍の性能を持つという。
「一番身近なコンピューティングデバイスはモバイル端末」(ザン氏)との考えから、NVIDIAは今後もモバイル分野に注力していく。その際に生きるのが、NVIDIAがこれまでデスクトップPCやノートPCなどで培ってきた技術だ。エヌビディア・ジャパン マーケティング本部 広報/マーケティング コミュニケーションズ シニアマネージャーの中村かおり氏は「Tegra 2に採用しているGeForceは新たに開発したわけではなく、既存の技術を使っているので、上(PC)から下(モバイル)に落とし込むイメージ。(Qualcommなどの)競合他社は、1からグラフィックスの性能を上げていく必要があるので、開発の方向性が異なる」とNVIDIAの優位性を話した。スマートフォンやタブレットの普及に比例して、今後はTegra 2と、それに続く次世代プロセッサがモバイル分野で存在感を高めそうだ。
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