スマホとLTE戦略でシナジー創出――孫社長がSprint買収の狙いを説明世界3位の通信事業者へ(1/2 ページ)

» 2012年10月16日 03時12分 公開
[田中聡,ITmedia]

 ソフトバンクが10月15日、米国の通信事業者 Sprint Nextel(以下、Sprint)に約1兆5709億円(約201億米ドル)の投資を行うことについて、最終的な合意に至ったことを発表した。総投資額のうち、約9469億円がSprintの株主に支払われ、約6240億円がSprintの財務体質強化などに使われる。この1兆5709億円は、手元資金に加えて銀行からの借入金で賄う。Sprint株式の70%をソフトバンク、30%を既存株主が取得し、Sprintはソフトバンクの連結子会社となる。

少なくとも規模においてドコモを抜いた

photo ソフトバンク 代表取締役社長の孫正義氏。「プロポーズするのは常に私。ボーダフォンやイー・アクセスなど、ほとんどのケースにおいてそうだった」――と今回の買収は孫氏から話を持ちかけたことも明かした

 緊急記者会見に登壇したソフトバンク 代表取締役社長の孫正義氏は「16歳のときに私は単身アメリカに渡った。アメリカは初めての外国で、とてつもなく大きくて素晴らしい国。そこへ留学し、日本に帰ってきてソフトバンクを設立した。それから30数年後、アメリカに大きく再進出できることをたいへんうれしく思う。戦をすることには、当然のことながらさまざまなリスクがある。今回のアメリカへの挑戦は決して簡単なことではないと思っている。これまで培ってきた経験が生きるのか? と思うこともあるし、文化も違う。もう1度ゼロから始めないといけない……そういういうチャレンジだ。一方で、挑戦をしないことが、別の意味でもっと大きなリスクを生むかもしれない」と米国進出への想いを語った。

 ソフトバンクは国内ではウィルコムとイー・アクセスを完全子会社化。そして今回買収したSprintの契約数約5600万を合わせると、契約数の合計数は約9600万契約に上る。「日米市場の中でも、最大級の顧客基盤を持つことになる。AT&TやVerizonに匹敵する。日米市場両方を足して換算すると、ソフトバンクは世界の事業者における売上で、(China MobileとVerizonに続く)3位に入る」と孫氏は力を込める。「ボーダフォンジャパン(以下、ボーダフォン)を買収したときに、ドコモを抜くんだと熱く語ったが、『そんなことあり得ない』とほとんどの人が笑っていた。10年以内という期限付きでドコモを抜くと言ったら、『なおさらあり得ない』とも言われたが、それから6年がたった今、少なくとも規模においてドコモを抜いた」と孫氏は感慨深げに話す。2012年1〜6月期における携帯事業の売上高は、ソフトバンクグループとSprintを足すと2.5兆円、ドコモは2.1兆円であり、単純計算では孫氏の言うとおり、国内トップ、世界3位に躍り出ることになる。

photophoto Sprint Nextelの米国における契約数シェアは3位(写真=左)。日米における通信事業者の累計契約数(写真=右)
photophoto 今回の取り引きで日米最大級の顧客基盤を作り、売上は世界3位に躍り出る
photophoto ソフトバンクがSprint株式の70%を取得する

米国のスマホ市場は世界最大

 これまで「アジアナンバー1のインターネットカンパニーを目指す」と連呼してきた孫氏が、なぜ米国への進出を決めたのだろうか。まず、米国の携帯電話契約数は約3.5億に上り、日本の1.4億をはるかに上回る。さらにスマートフォンの稼働台数は1.7億台、ARPUは4454円で、いずれも世界1位だ。「アメリカはスマートフォン最新国であり、スマホ市場は世界最大。ポストペイドの比率も高く、他国と比べて、米国市場は際立って健全で高い収益を生んでる」と孫氏は説明する。

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photophoto 米国の携帯電話契約数、スマートフォン稼働台数、ARPUは日本を超える。ポストペイド比率も比較的高い

 しかし米国の携帯市場には問題もある。モバイルデータ通信の平均実効速度(2011年)は日本の2Mbpsに対して米国では1.1Mbpsで、日本の約半分ほど――という調査結果もある。携帯事業者のシェアは、VerizonとAT&Tの2社の寡占状態となっているのが現状だ。特に上位2社が寡占している状況は、ドコモとKDDIが多くのシェアを占めている日本と似ていることもあり、「金持ちの2社が市場を寡占していることは、挑戦者にとってはまたとないチャンスと言えるかもしれない。日本で体験したことをもう1度再現できる」と孫氏は米国参入を決意した。

photophoto モバイル通信の速度は日本よりも遅く、トップ2社の寡占状態が続いている

ソフトバンクから学んで米国1位を目指す――ヘッセ氏

photo Sprint CEOのダン・ヘッセ氏

 では、当のSprintはどのような思惑でソフトバンクとの提携を決めたのだろうか。米国市場におけるSprintは、ポストペイド型の携帯電話契約数は約3300万の3位、プリペイド型の携帯電話契約数は1500万の2位、売上高は340億ドルの2位(いずれも2012年第2四半期時点)。トップ2のVerizonとAT&Tから大きく離されているが、通信収入成長率とARPU成長率は1位で、Sprint CEOのダン・ヘッセ(Dan Hesse)氏によると、2012年第2四半期では史上最高のARPU成長率を示したという。「Sprintの契約数は2007年から下降傾向にあったが、ビジネスを反転させるために長期的な予測をして計画を立ててきた」と説明するヘッセ氏。具体的には、2008〜2011年は「再建」(ブランド改善、契約数や売上増加、コスト削減など)、2012〜2013年は「投資」(世界水準のネットワーク構築、ネットワーク重複コストの見直しなど)、2014年以降は「利益成長」を再建の指標に掲げている。

photophoto 米国市場におけるSprint(写真=左)。2008年から業績回復に向けた取り組みを進めている。2012年現在は第2フェーズの「投資」に注力している(写真=右)

 1つ目の再建については、顧客満足度の改善に注力した。「なぜ我々のサービスが良くないのか、喜んでいただけていないのかを、いろいろな角度から分析した。ユーザーからかかってきた電話の内容を毎週月曜に幹部で共有し、課金情報、請求書に対して問題があるのかなどを調べた。従業員に対してもそれぞれの指標にもとづいて評価して給料を払った。その結果、毎年公表される顧客満足度調査では、2007〜9年は低いレベルだったものが、最終的には1位を獲得することができた。さらに重要なことは、Sprintが顧客満足度で最も改善できた会社であること。過去4年で改善度が1位であり、最下位から1位になった唯一の会社だった」とヘッセ氏は手応えを話す。また、ブランド力指数が分かるネットプロモータースコアも、Sprintが米国事業者の中で唯一改善し、ポストペイド携帯では2年連続1位を獲得した。

 契約数は2007年の5400万から下降傾向にあり、一時は4810万まで落ち込んだが、2010年から持ち直し、2012年には5640万まで上昇した。コスト削減も徹底し、カスタマーケア費用を46%、一般販売管理費用を49%、マーケティング&プロダクト費用を32%、IT&料金関連を34%、人件費を33%削減し、年間で約47億ドルを削減した。

 2つ目の投資は、2012年から来年にかけて進行中のフェーズだ。まず、2005年に買収したNextel社の2Gネットワークを完全に停止し、3Gへの移行を完成させる。こうした(2Gと3Gの)ネットワーク重複を解消することで、年間15億ドルのコスト削減を見込む。さらに4G(LTE)ネットワークの展開も行い、設備投資の効率化も図る。

photophoto Sprintは顧客満足度の大幅な改善に成功(写真=左)。ネットプロモータースコアも上昇している(写真=右)
photophoto 契約数も過去最高水準で推移している(写真=左)。環境問題への取り組みも進めており、上位25位中、通信事業者では唯一Sprintが選ばれた(写真=右)
photophoto さまざまなコスト削減にも尽力した(写真=左)。ネットワークの高度化やLTEの展開も進める(写真=右)

 Sprintが見込むソフトバンク買収の効果は、「米国市場における競争力の強化」「ソフトバンクのV字回復のノウハウ」「株主価値向上に向けた最善の方策」の3つ。

 「ソフトバンクから、そして孫社長からさまざななことを学んでいきたい。日本における成功体験を生かしていきたいし、LTEの技術についても学べることがある。今回の投資を受けることで、Sprintはにアメリカ市場におけるポジションを固められると思う。これまで一時会社としてうまくいっていないと言われていたが、今は違う。アメリカで1位になることを目指している」とヘッセ氏は力強く語った。

 孫氏も、一時は純減が続くほど悪化していた業績を、Sprintが自力で回復させたことを評価する。「(Sprintは)2011年は3カ月で162万契約を獲得し、完全に純増に転じた。顧客満足度もナンバー1に回復している。(2011年秋に)iPhone 4Sを発売したころから株価も改善してきている」(孫氏)

photophoto Sprintの契約数は反転して純増しており、ARPUも順調に増えている

 またヘッセ氏について孫氏は「ダンさんとは(Sprintの)CEOになった2007年以前からの知り合い。ダンさんが新しいベンチャーカンパニーを作り、CEOとして活躍しているときに、ソフトバンクは出資者としてお金を投入していたので、今回初めて知り合ったわけではない。そのときからの信頼関係があるし、相性良くやっていけると私は高く彼を評価している」と話した。

 ヘッセ氏も「孫社長とは昔からの知り合い。ネクタイをしている姿を見るのは初めてかもしれないが(笑)。我々はいくつかの戦略的パートナーを考えたが、ソフトバンクとの取り引きが一番価値を生むものだと考えた」と話した。

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