2008年のPC業界を語るうえで避けて通れないのが低価格ミニノートPCの台頭だ。PC USERの年間記事別アクセスランキングトップ100を下表にまとめたが、1位のAtom N270(1.6GHz)搭載Netbook「Eee PC 901-X」をはじめ、工人舎のGeode LX搭載機「SA5SX04A」、Celeron M採用のEee PC初代モデル「Eee PC 4G-X」、C7-Mを装備した日本HPの「HP 2133 Mini-Note PC」、デル初のNetbook「Inspiron Mini 9」など、10位以内の半数が低価格ミニノートPCのレビュー記事という結果となった。11位以下のランキングを見ても、とにかくNetbookの記事が目立つ。Atom N270(1.6GHz)搭載のNetbookが登場したのは7月だが、それから半年足らずでPCの一大ジャンルとして成長するに至った。
低価格ミニノートPCの日本上陸にあたり、メーカーや販売店からは「それ以外のPCが売れなくなるのではないか?」という不安の声も聞かれたが、世界的な不況が叫ばれる中で販売台数は平年並みに推移しており、現状ではその心配はなさそうだ。しかし、低価格ミニノートPCの流行はほかのPCの低価格化も招いており、出荷金額は下降線を描いている。例えば、10位にランクインしたモバイルノートPCの特集記事は3月のものだが、紹介したモデルはいずれも当時22万〜27万5000円前後の製品だった。今となっては非常に高価な印象を受けてしまうが、今年の前半にはこれがモバイルノートPCの適正価格だったのだから、この1年で確実に状況は変化したといえる。
PCの低価格化はユーザーにとってうれしい半面、メーカーにとっては頭の痛い問題だ。今後のメーカー製PCは、これまで以上にコストにシビアにならざるを得ないだろう。そして、14位にランクインした高級モバイルノートPC「VAIO type Z」のように、「Netbookより高いけれど、買う価値がある」とユーザーに思わせる差異化がより求められていくことになる。そういった意味でも、12月24日にティーザー広告が開始されたソニーの新モバイル製品には注目したいところだ。
Netbook以外では、今年もアップルが我が道を突き進んで多くの話題を提供した。アップルで今年1番のトピックといえばiPhoneの日本上陸だが、PC関連では1月のMacworld Expo 2008で華々しくデビューした薄型軽量ノートの「MacBook Air」や、10月15日にフルモデルチェンジしてアルミ削り出しの「ユニボディ」に生まれ変わった「MacBook」が話題を集めている。
その中でも新型MacBookにWindows XPをインストールしたレビュー記事が8位と上位にランクインしたのは興味深い。今やMacはデザインに優れたWindows対応マシンとしても選ばれており、ITmedia内にも新型MacBookにWindowsをインストールして使用している人をチラホラ見かけるようになった。
サンフランシスコで2009年1月5日(現地時間)から開催されるMacworld Conference & Expo 2009では、恒例となっていたスティーブ・ジョブズCEOの基調講演がなくなり、2010年以降は同イベントから撤退することを明らかにするなど、年末に少々寂しいニュースも飛び込んできたアップルだが、来年もPC業界のトレンドを先取りするような画期的な製品展開を望みたい。
PCパーツ関連の動きでは、4位にランクインしたPC用単体デジタルテレビチューナーの比較記事が目を引く。地デジ普及率のアップや、コピーフリー環境を実現する一部のPC向けデジタルテレビチューナー製品に対抗すべく行われた規制緩和によって、PC用の単体デジタルテレビチューナーが4月に登場したのは、周辺機器メーカーにとってもユーザーにとっても朗報なはずだった。
しかし、発売当初は機能が少ないこともあり、好調な売れ行きとはならなかった。その後は、ダビング10への対応や録画番組の編集機能などがアップデートで追加され、ダブルチューナー搭載モデルも登場するなど、少しずつではあるが進歩は見られる。ただし、かつて自作PCブームを後押ししたアナログテレビチューナー時代の自由な編集環境には到底およばないのも事実だ。
今後は一層の規制緩和が進むか、あるいはソニーが「TP1」などで提案しているPCならではの録画機能などのメリットを生み出せなければ、国内メーカーによるPC用単体デジタルテレビチューナーの爆発的なヒットは望めないだろう。
自作関連では、Nehalemの開発コード名で知られる新アーキテクチャのCPU「Core i7」シリーズが11月に登場し、そのレビュー記事が27位にランクインした。ランキングでは目立っていないものの、グラフィックスカードではAMDのRadeon HDが健闘したり、デュアルGPU構成やGPUのGPGPUとしての性能が注目されるなどのトレンドが見られる。2008年に登場したCPUとGPUのまとめは、こちらの記事(イマドキのイタモノ:「よくできました」「がんばりましょう」「よくがまんしました」──新世代パーツ通知簿2008年版)を参照してほしい。
ソフトウェア関連では、2位にATOK 2008のレビュー記事がランクインした。記事の内容が少々過激だったこともあるのだろうが、ほかの売れ筋製品を抑えて、日本語変換ソフトの記事が2位にランクインしたのは面白い。職業柄、記者や編集者の間ではATOKが定番ソフトとなっているが、MS-IMEの日本語変換精度に不満を感じている一般ユーザーも多いということか。
7位に入ったWindows Vista Service Pack 1のレビュー記事にも触れておきたい。依然としてWindows XPが強いビジネスPC市場や、Windows XPを採用したNetbookの普及もあり、今年もVistaが爆発的に普及するような事態にはならなかったが、SP1のレビュー記事がトップ10以内に入っていることからはVistaへの高い期待がうかがえる。
もっとも、Windowsへの興味がVistaから次期OSの「Windows 7」へ移りつつあるというユーザーも少なくないだろう。Vistaの改良版となるWindows 7だが、2009年早々に配布される予定のβ版がどのようなものになるのか楽しみだ。
PC USERでは毎週アキバのショップ・イベント情報もお届けしているが、2008年の秋葉原といえば、全国に衝撃を与えた6月8日の連続殺傷事件を重大ニュースとして挙げないわけにはいかないだろう。ランク外にはなったが、その後のアキバを占う対談記事は大きな反響があった(前編、後編)。
PCショップの街としてのアキバが好きなユーザーにとっては、老舗ショップの閉店が続いたこともつらいニュースだったに違いない。1月31日の高速電脳を皮切りに、4月15日にはUSER'S SIDEが閉店、そして10月30日に九十九電機が東京地方裁判所へ民事再生法の適用を申請したニュースには驚かされた。
無論、暗いニュースばかりではない。13位に入ったテラバイト級HDDの低価格化を筆頭に、アキバでのPCパーツ値下げ関連のトピックは相変わらず人気が高かった。詳しくはこちらの記事(5分で分かった気になるアキバ事情:「インテル活躍しすぎ(笑)」な2008年のアキバ電気街――PCパーツ編)を参照してほしい。2009年は前述した新アーキテクチャのCPUやGPUがミドルレンジに下りてくることもあり、自作PC市場の盛り上がりに期待したい。
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