一方で「デバイスやプラットフォームそのものは重要ではなく、むしろクラウドにこそ意味がある」という戦略が明確になってきたのも、2014年におけるMicrosoftの大きなトピックだろう。語弊があるかもしれないが、デバイスやプラットフォームの存在がどうでもいいという話ではなく、「なにもWindowsやPCという入り口にこだわらない」というマルチデバイス/マルチプラットフォームの考え方だ。
具体的には、PC、スマートフォン、タブレット、テレビ(STB)といった形で複数のフォームファクタに分散していたプラットフォームを横断し、統一的なアプリの実行環境を提供する。かつて「Write Once, Run Anywhere.」のキャッチフレーズで「Java」が登場したように、今度はMicrosoftがWindowsでそれを実現しようとしているのだ。
Windows 8.1、Windows Phone 8.1、Xbox Oneが提供されている現行段階ではAPIの互換率が7〜9割程度、ユーザーインタフェースの面でも制約があるが、WinRTランタイム向けに開発されたModern UIアプリは基本的に互換性を持っており、小型スクリーンから大画面テレビまであらゆるスクリーンサイズをカバー可能だ。これをさらに推し進めるのが2015年登場予定のWindows 10での大きな目標となる。
また100ドルPCの項目でも触れた通り、MicrosoftはOSの無料化を含むiOSやAndroidといったライバル製品への積極的な対抗を進めているが、同時に「プラットフォーム中立」と言える戦略も打ち出しており、虎の子である「Office」をこれらライバルプラットフォームにも提供し、まさに「入り口にはこだわらない」ようになっている。
Windows(.NET)環境でアプリケーションを構築した企業ユーザーに対しては、こうしたマルチプラットフォーム環境でアプリケーションの横展開を容易にする仕組み(Xamarinなど)を提供したり、あるいは「.NETのオープンソース化」「Visual Studioの無償提供」で開発促進を促したりしている。そしてWindows無償化と引き替えに同社が推進するのは、クラウド版Officeである「Office 365」の積極的な展開と、それによる収益構造の変革だ。
コンシューマー向けのOSライセンスによる売上が減少する中、MicrosoftはOffice 365のサブスクリプションに収益の可能性を見いだしつつある。Office 365契約ユーザーには「OneDriveの1Tバイトストレージ」が付与される特典があり、10月には「OneDriveのストレージ容量無制限化」を数カ月かけて行うことが発表された。Office 365を継続利用する限り、このオンラインストレージが自由に使えるわけで、ある意味で究極の切り札とも呼べる。連載では、この大容量オンラインストレージの活用方法を考えてみたりもした。
ただ少しうがった見方をすれば、この大容量オンラインストレージの提供は新たなベンダーロックインの形と言えるかもしれない。例えばGmailやGoogle Appsをヘビーに活用しているユーザーが競合サービスへと移るのが難しいように、クラウド型のサービスは使い込めば使い込むほどユーザーの滞留率が高くなる。Windowsという殻にこだわらなくなったMicrosoftがクラウドに注力するのは、こうした側面もあるのだろう。
2014年が今後MicrosoftやWindowsが目指すべき道が示された年だったとすれば、2015年はそれが本当にどこまで実現できたのかを確認する年になるだろう。特に課題として残った「企業ユーザーの“よりモダンな”プラットフォームへの移行」「すべてのスクリーンサイズを包含するアプリ実行環境」という部分を、Windows 10でどこまで実装できるかに注目したい。
そして日本におけるもう1つの注目は「Windows Phone」の動向だ。「One Microsoft」を実現する重要なピースでありながら、日本では現時点でスマートフォン向けの明確な戦略が示されていない。Microsoft関係者と話していると、日本でのデバイス提供には比較的前向きな姿勢を示しているのだが、まだその方策がつかめていない印象だ。Windows 10と合わせ、この日本でのスマートデバイス戦略を引き続きウォッチしていきたい。
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